「学べるゲラ」とは
実際の新聞原稿を元に、校閲記者が見つけた(見逃した)間違いやありがちなミスを盛り込んだゲラ(校正刷り)を作成しました。読んで誤字脱字・事実関係の誤りなどを探してみてください。
校閲記者が読んだ後の「校閲後」のゲラと解説も掲載していますので、自分の入れた直しと見比べられます。
「校閲は先輩のゲラを見るのが一番の勉強」といわれます。ゲラからは、校閲記者がどのように読み、考え、調べ、直しを入れて疑問を出すかが読み取れます。専門の校閲・校正者以外の方が「校閲後」のゲラと解説を読むだけでも、間違えやすいポイントやミスの潰し方などの参考になります。
👉学べるゲラ第1回・校閲前(PDF)
※こちらから別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
第1回は国語世論調査の結果を紹介する記事です。資料を正確に読み解く、そして原稿と厳密に照らし合わせて確認することが必要です。さらにこの調査から、言葉の「誤用」とは何なのかしっかり考えた上で適切な表現を模索できるとよいでしょう。
※原稿の赤字の書き方は毎日新聞での習慣によるもので、一般的な書き方と異なる場合もあります
👉学べるゲラ第1回・校閲後(PDF)
※こちらからPDFを別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
画像をクリックすると校閲後のゲラを拡大表示できます
直しの難易度の目安
<誤字脱字・誤用など>
【★☆☆】丁寧に読めば指摘できる
【★★☆】基本的な校閲の知識で指摘できる
【★★★】言葉に関する専門的な知識や経験が必要
<文脈理解>
【★☆☆】普通に読めば指摘できる
【★★☆】注意深く読む必要がある
【★★★】原稿全体の理解や背景知識が必要
<事実確認>
【★☆☆】常識的な知識で指摘できる
【★★☆】調べれば比較的簡単に指摘できる
【★★★】綿密な調査が必要
「年」と「年度」の違いに注意
数字が大量に出てきて確認するのが大変そうですが、基本的には文化庁の発表資料を見ていけば内容は確認できるはずです。
【★★☆】3段落目の5行目、「11年調査」でよいでしょうか。1段落目には「2021年度」、2段落目には「1995年度」とあり、ここも「11年」ではなく「11年度」ではないか、と疑われます。
令和3年度(2021年度)の調査結果(PDF)を見ると、上のような箇所がありました。対比されているのは「平成23年度(2011年度)」で、やはり「年度」となっています。こちらの調査結果(PDF)を見てみると、確かに「半端ない」についての調査があり、数字も一致します。
2011年と2011年度(2011年4月~2012年3月)には重なる期間があるので「11年」でも「11年度」でも正しい、というケースはあるのですが、この資料には調査時期が「平成24年2~3月」とあります。つまり調査時期は2012年なので、やはり原稿は「11年度」にすべきではないかと疑問を出します。
数字のチェックは厳密に
【★★☆】5段落目の「ちがくて」を使うことがある人の割合は24.4%でよいでしょうか。再び文化庁の発表資料を参照します。
「ちがくて」を使うことがあるという人は20.2%でした。24.4%は「あの人みたくなりたい」という表現を使う人の割合です。筆者に確認する必要があります。
【★★☆】さらに7段落目、「あらげる」と読んだ人の割合が「77.9%」と書かれていますがどうでしょう。
令和3年度の列の「荒(あ)らげる」は79.7%。こちらも確認が必要です。
以上の2例のように、資料から数字を引用する際に別の欄の数字を書き写してしまったり、数字を見間違えたりして誤ってしまうことはよく起こります。資料の数字と原稿の数字を一つ一つ突き合わせて確認することは、簡単ですが気を抜けない校閲の基本作業です。
「正しくない」と言い切れるか
【★★★】6段落目の「『姑息』を正しい意味で使っていたのは」という箇所。「正しい意味」という表現でよいでしょうか。
「姑息」の正しい意味は「一時しのぎ」だ、と書いてしまえば、もう一つの選択肢の「ひきょうな」という意味は「正しくない」ことになります。確かに「現代では誤って『卑怯である』という意味に使われることが多い」(大辞林4版)というふうに「誤り」だとする辞書もありますが、「俗に、卑怯なさま」(広辞苑7版)などと俗用としては「ひきょう」の意味を認めている辞書もあります。
「国語に関する世論調査」でも、「一時しのぎ」が「正しい」とはせず「辞書等で主に本来の意味とされてきたもの」とかなり回りくどく書いており、正誤の断定を避けています。それを記事で「正しい意味」とすっぱり書くのには慎重であるべきかと思われます。筆者に確認が必要でしょう。
このように「誤用かどうか」という判断は非常に難しいものです。校閲が直しを入れる際にも、「この言い方は間違い」と断定せず、筆者に「本来の言い方ではない」「誤解される恐れがある」などと相談すべき場面も多くあります。
その他の直し箇所
【★☆☆】署名人→著名人
漢字の音も形も似ているため見逃しやすいミス。
【★★☆】使うかどうかなど尋ねた→使うかどうかなどを尋ねた
補った方が明確になってよいでしょう。
【★★☆】機会が普及した→機会が増え、普及した?
「機会が普及する」は言葉のつながりがしっくりきません。何か補った方がよいのではないかと提案します。
【★☆☆】木村拓也→木村拓哉
元SMAPの俳優、キムタクといえば木村拓哉さん。広島カープなどで活躍した元プロ野球選手は木村拓也さん。
【★★☆】実体→実態
ここでは「実際の状態」という意味なので「実態」が適切。
【★☆☆】時間ともに→時間とともに
単純な脱字ですが、連続する平仮名が一つ足りない、というパターンは見逃しやすいので注意。
【★★☆】捕らえていた→捉えていた
「つかまえる」という意味の「捕らえる」よりは、「把握する、理解する」という意味の「捉える」のほうが適切。
【★☆☆】解答→回答
国語に関する「世論調査」なので、試験の答えを書くような場合の「解答」よりは、アンケートに答える「回答」の方がよいでしょう。文章中もここ以外は全て「回答」の表記です。
◎「~を表す表現」という書き方が意味のダブりに見え、「表す言葉」などに直そうかと思いましたが、「『ひっきりなしに続くさま』を表す」が「表現」を修飾する関係にあると考えれば問題はないかと思い、直さず。同じ漢字がすぐ近くで繰り返されると校閲は気にしてしまいがちですが、不適切とは限りません。
【★☆☆】新型コロナウイスル→新型コロナウイルス
一時期これでもかというほど見た入力ミスです。最近見かけませんが、間違いは忘れた頃にやってきます。
校閲後のゲラと解説は有料会員限定ですが、こちらの第1回はどなたでもご覧になれます。
原則毎週土曜日に公開。⇒「学べるゲラ」一覧