「学べるゲラ」とは
実際の新聞原稿を元に、校閲記者が見つけた(見逃した)間違いやありがちなミスを盛り込んだゲラ(校正刷り)を作成しました。読んで誤字脱字・事実関係の誤りなどを探してみてください。
校閲記者が読んだ後の「校閲後」のゲラと解説も掲載していますので、自分の入れた直しと見比べられます。
「校閲は先輩のゲラを見るのが一番の勉強」といわれます。ゲラからは、校閲記者がどのように読み、考え、調べ、直しを入れて疑問を出すかが読み取れます。専門の校閲・校正者以外の方が「校閲後」のゲラと解説を読むだけでも、間違えやすいポイントやミスの潰し方などの参考になります。
👉学べるゲラ第4回・校閲前(PDF)
※こちらから別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
校閲の仕事は、誤字脱字のチェックや事実関係の確認だけではありません。記事の内容をゆがめるような表現になっていないか、人を傷つけたりおとしめたりする表現はないか、言葉の一つ一つに気を配るのも校閲の大切な仕事です。
👉学べるゲラ第4回・校閲後(PDF)
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直しの難易度の目安
<誤字脱字・誤用など>
【★☆☆】丁寧に読めば指摘できる
【★★☆】基本的な校閲の知識で指摘できる
【★★★】言葉に関する専門的な知識や経験が必要
<文脈理解>
【★☆☆】普通に読めば指摘できる
【★★☆】注意深く読む必要がある
【★★★】原稿全体の理解や背景知識が必要
<事実確認>
【★☆☆】常識的な知識で指摘できる
【★★☆】調べれば比較的簡単に指摘できる
【★★★】綿密な調査が必要
性を決めつけない
【★★★】最後に出てくるイラストにつく説明の一つに、「車イスの女の子」とあります。これでよいでしょうか。
この記事は、性別を強調しない「ジェンダーニュートラル」なイラストを紹介したものでした。髪形などから判断して「女の子」と説明をつけてしまっては元も子もありません。記事の趣旨と合わず、イラスト作成者の思いにも反することになります。他のイラストには「子」「子ども」とニュートラルな説明がついています。「車イスの女の子」についても、「車イスの子」でいいのではないかと筆者と相談する必要があります。
直す箇所ではありませんが、2段落目の「LGBTQなど性的マイノリティー」という表現についても少し説明を加えます。
今回の記事のように、記事の中で性的少数者に触れる機会は多くあります。毎日新聞では2019年に改訂された用語集で「性的少数者関連用語」という項目を追加し、用語の定義や表現の注意点をまとめました。
かつて毎日新聞では「LGBT(性的少数者)」と書かれている記事も散見されたのですが、前述の用語集では、原則「LGBT(性的少数者)」とはせず「LGBTなど性的少数者」「性的少数者(LGBTなど)」との書き方が望ましいとしています。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)以外が排除されているという捉え方もあると考えるためです。最近では「LGBTQなど性的少数者」と書くことが増えています(Qは性自認が定まっていない人などを指す)。ここに挙げた書き方は一例で、新聞も多様な性を包括できる表現を模索している段階です。
その他の直し箇所
【★★☆】保育師→保育士
資格、職業によって「士」「司」「師」と異なります。「臨床心理士」と「公認心理師」など、間違えやすそうなものもあります。
【★☆☆】半スボン→半ズボン
濁点がとれていたり、半濁点になっていたりということはなぜかよく起こります。
【★★☆】NGO法人→NPO法人?
NGOと法人のつながりに違和感を覚えた方もいるかもしれません。インターネットで「ASTA」を調べてみましょう。法人のウェブサイトを確認するとNPO法人とあります。
内閣府NPOホームページで検索しても出てきますので、NGO(非政府組織)ではなくNPO(非営利組織)ではないか?と筆者に確認します。
こちらによれば所在地は名古屋市で間違いなさそうです。
【★☆☆】使うこと多いが→使うことが多いが
「たり」は必ず2回、でもない
◎内股だったりする
ゲラには「たり」に波線があって少し考えた跡が残っていますが、結果的には直していません。
並立の「たり」は「~たり~たり」と重ねて使うのが基本形です。「遊んだり学ぶのを手助けする」のように後の「たり」がないと、「遊ぶ」と並立させているのが「学ぶ」か「手助けする」か不明確になる場合があるためですが、ここは「一例として挙げ、他にも同様の事があるのを暗示する」(岩波国語辞典8版)用法だと考えてこのまま許容します。
【★☆☆】姓同一性障害→性同一性障害
「×同姓婚→○同性婚」「×夫婦別性→○夫婦別姓」など、「性」と「姓」は間違われやすく、見逃しやすいミスです。
原典に当たれない場合も
【★★☆】過半数を超えた→過半数を占めた、過半数に達した、半数を超えた
「過」と「超」にいずれも、ある水準を上回る意味があるので、「過半数を超えた」は重複表現と考えられます。
ちなみに、引用されている岡山大病院ジェンダークリニックの調査について、今回の「学べるゲラ」を作成した校閲記者は、インターネット検索のみでは、原典にあたることはできませんでした。「岡山大病院ジェンダークリニック」「性同一性障害」「1167人」「56.6%」などいくつかのキーワードから検索し、複数の自治体の資料が同じ調査・数字を引用していることを確認して、ある程度信頼できると判断しました。原典で確認するのが一番ですが、時間が限られている新聞校閲では、自分の調べられる範囲内でけりをつけることもあります。
【★★☆】性自任→性自認
自任は「自負」、自認は「自覚」の意味があります。
【★☆☆】違和感をを持つ→違和感を持つ
行変わりは文字のダブりを見逃しやすくなるので、要注意です。
【★★☆】和げよう→和らげよう
新聞記事の送り仮名は1973年6月18日内閣告示の「送り仮名の付け方」に基づいています。活用のある語は活用語尾を送ることが多いですが、「和らぐ」は例外の一つです。送り仮名に迷うときは、この「送り仮名の付け方」を指針にするのもよいでしょう。文化庁のウェブサイトからも確認できます。
【★★☆】遊び、季節の行事、健康管理、遊び、防犯→遊び、季節の行事、健康管理、防犯
遊びが2回出てきているのでどちらかをとります。また、とるときに読点だけ残してしまわないように注意が必要です。
【★★☆】補聴機→補聴器
「補聴器」は「器」が一般的です。「器」「機」の使い分けは難しく、毎日新聞の用語集では「器」は「単純または小型のもの」、「機」は「複雑または大型のもの」としていますが、どちらでも通るものもあり、使い分けに悩むことも多いです。
【★☆☆】リィナさん→りぃなさん?
初出の2段落目では「りぃなさん」と平仮名で登場します。どちらの表記にするのか筆者に確認が必要です。
図と説明は丁寧に照合
【★☆☆】右上→左上
写真や図の左右などは編集段階で入れ違ってしまう場合もあります。説明と丁寧に照らし合わせて確認する必要があります。イラストを説明の順番に入れ替える形で直すこともできますが、説明文を修正すると最小限の直しですみます。
校閲後のゲラと解説は有料会員限定ですが、こちらの第4回はどなたでもご覧になれます。
原則毎週土曜日に公開。各記事には公開期限があります。⇒「学べるゲラ」一覧