「~年までに廃止」といった場合、いつまでに廃止するものと感じるかを伺いました。
目次
「年の終わりまで」が最多
「2030年まで」に石炭火力発電を廃止する――カギカッコの中はどう受け取りますか? |
2030年の始まりまで 27.3% |
2030年の終わりまで 46.6% |
上のどちらにも受け取ることができる 26.1% |
「~年までに廃止」といった場合の期限は、その年の終わりまでと考える人が半数近くを占めて最多でした。一方で、その年の始まりまでと考える人と、始まり・終わりのどちらとも受け取れると考える人を合わせると半数を超えており、なかなか悩ましい用法であることは間違いありません。
幅のある期限をどう考えるか
「まで」の意味は国語辞典を引くといろいろ載っていますが、
〈「までに」の形で〉物事が実現する期限を表す。「十時までに帰る」「来週までに二冊読む」
(明鏡国語辞典3版)
のように、今回は期限を切る表現として扱います。
しかし明鏡の用例が既に、少し悩ましく感じられます。「十時までに帰る」は何の迷いもありません。「十時」という時刻はピンポイントで、それを過ぎたら期限を超過するということがはっきりしています。しかし「来週までに二冊読む」の方は、「来週」という期限に幅があります。来週の始まりまでに、すなわち今週中に2冊読んでおかなければならないのか、あるいは来週の終わりまで、すなわち来週中に2冊読んでおけばよいのか、今回の質問と同様、解釈が分かれそうです。
あえて幅を取るものかも
もっとも、今回の質問のような、実現までのハードルが高そうな事案の期限については、あえてピンポイントで設定せずに、幅のある期限をもうけるということも考えられそうです。実現までの期間が長い場合には、期限を細かく明示しないのも方便であろうという考え方です。
先ごろ広島で開かれた、主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言には「2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させる」のような文言がちりばめられています。一方で、より実現性の高そうな目標については「我々は、平時の保健システムを強化する取組の一環として、2025年末までにパンデミック前の水準より改善させる」のように、「年末まで」という言い方も出てきます(引用部分の後に、目標をぼんやりさせるような言い回しが続くのですが……)。こうした使い分けからは、とりあえず目標をぶち上げるに当たり、ピンポイントの期限は必要ないのかとも感じます。
受け手に委ねられる解釈
アンケートの結果からすると、「~年まで」のような期限の切り方は解釈が分かれるので受け手にとっては不親切な表現で、「~年初まで」「~年末まで」のように期限をピンポイントで明示するのが、伝わりやすい適切な表現と言えます。
ただし、現時点から目標までの期間が長期にわたる場合には、期限にある程度幅を持たせてもよいとする考え方もあるかもしれません。情報の受け手としては、自分がいる時点から期限までの時間的距離も勘案して、それがカッチリとした期限なのか、あるいはそうでもないのかということを考えたうえで、情報を解釈する必要がありそうです。
(2023年06月22日)
たとえば「午後5時までに原稿を提出する」という場合には、提出が午後5時というポイントを過ぎたら予定よりも提出が遅れていると考えることができます。こうした「まで」は期限を線引きする言葉として分かりやすいものです。▲しかしこれが「2030年まで」となると話が違ってきます。「午後5時」の場合、この期限は「午後5時より前/5時より後」を画する線引きとして働いていますが、「2030年」は線として見るにはだいぶ幅があります。▲出題者は、多くの場合「○年まで」は同年を含むものと受け止めます。ただしこれが「○年までに廃止する」などと、打ち切りや削減を意味する場合には、「○年には既に廃止されていないといけないのかな」と考えて迷うこともあります。皆さんはどう受け取るでしょうか。
(2023年06月05日)