朝収穫したばかりの野菜をどう表現するかについて伺いました。
目次
「朝採れ野菜」が半数超す
今朝収穫の野菜だよ――これは、どう書きますか? |
朝「取り」野菜 5.5% |
朝「取れ」野菜 3.8% |
朝「採り」野菜 33.9% |
朝「採れ」野菜 56.8% |
朝収穫の野菜をどう表現するかは、「朝採れ野菜」が一番人気で過半数に達しました。「朝採り野菜」も3分の1程度を占めており、漢字表記は「採」を使う人が9割に。どれかが正解というものではありませんが、好まれる表記の傾向をうかがうことはできそうです。
漢字は「採」が圧倒
今回の質問は「朝どり野菜/朝どれ野菜」のどちらの呼び方をするかという問いと、「取る/採る」でどちらの漢字表記を使うかという問いの二つを合わせたものでした。回答を整理すると、
朝どり39.4%/朝どれ60.6%
取る9.3%/採る90.7%
という結果になります。「朝どり/朝どれ」では「朝どれ」がやや優勢で、漢字表記では「採る」が圧倒的に多数を占めるという結果です。
「取る」と「採る」の差は
毎日新聞用語集は「とる」の表記の使い分けに関し、「取る」を一般用語として広く使えるものとし、「採る」は「採取、採用」という意味の場合に使うよう案内しています。用例として挙げられているのは「キノコ採り、血液を採る、決を採る、山菜・木の実を採る、新卒の学生を採る、標本を採る」というもの。採血、採決、採用といった熟語が強く意識されるもののほかは、落ちているものを拾い上げるような例が目立ちます。
文化庁の「言葉に関する問答集6」(1980年)では、漢字「採」は「手」と「采(音符)=手の先で木の芽を摘み取るさま」の会意兼形声文字だとしています。ゆえに「採る」は「選んでとりあげる」「ひろいあげる」意味の場合に使うとされます。円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)も「“必要に応じて手に入れる”という意味」としています。一網打尽にするのではなく、ピックアップするのが「採る」ということです。
「取る」が広く使えることは、共通理解とみてよいでしょう。その上で、なぜ「朝どり/朝どれ野菜」では「採」が好まれるのか。毎日新聞用語集には、収穫の意味で「米を取る」という用例がありますが、「取る」の方が「採る」という営みよりも規模が大きい場合にも使われます。
一方で「朝どり/朝どれ」という言葉がイメージさせるのは、野菜をとった場所・時点と、販売の場面との距離的・時間的な近さです。朝収穫して、すぐ近くの店や直売所で売るという場合には、規模の大きさをイメージさせない「採」の方がよりなじむと感じられるのではないでしょうか。
「朝どり」か「朝どれ」か
一方の「朝どり」か「朝どれ」かについてはどうか。国語辞典でいずれかの項目を立てているものを見てみると、
あさどり(デジタル大辞泉、新明解国語辞典8版、三省堂国語辞典7版)
あさどりやさい(大辞林4版)
あさどれ(三省堂国語辞典8版)
のように分かれます。新明解は項目の中で「『あさどれ』とも」といい、三省堂8版は同様に「あさどり」があると説明しています。見出し語では「あさどり」が優勢に見えますが、目を引くのは三省堂の変化です。7版(2013年発売)では「あさどり」で項目を立て、その中で「あさどれ」もあると説明していたものが、2021年の8版では逆転しています。
毎日新聞の過去記事データベースを「朝ど(取/採)り野菜 or 朝ど(取/採)りの」というキーワードで検索すると、1987年以来の総件数は347件。一方の「朝ど(取/採)れ野菜 or 朝ど(取/採)れの」は148件でした。しかし、これを過去5年(2018年5月以降)に絞ると、前者が43件、後者が45件と、小差ながら逆転します。近年は「あさどれ」の形が好まれると言えそうです。
「とる」と「とれる」では、人が主語になるか、物(野菜)が主語になるかという差があります。これは臆測ですが、人が前面に出るよりは野菜を主役にする方が好まれるようになっているのかもしれません。
新聞表記では「朝取れ」とすべきか…
今回の質問は、地方版向けの原稿に出てきた「朝採れ野菜」という表記に引っかかった支局の記者(元校閲記者)からの疑問がきっかけでした。毎日新聞のルールでは、収穫の意味では「取」を使うのが標準的なのですが、今回のアンケートの結果から見ると原稿の表記は時流に沿ったものと言えそうで、あえて直す必要があるかは悩ましいところです。一般的な文章においては、好みの表記を使って差し支えないだろうと考えます。
(2023年04月20日)
朝に収穫した野菜のことをどう表現するかという質問です――と、いま「収穫した」と書きましたが、そう考えると「朝どり~」になるのが自然かもしれません。「朝とった野菜」と考えれば、動詞「とる」の連用形から、「朝どり(の)野菜」となる理屈です。▲一方、朝に「とれた」野菜、と考えるなら「朝どれ~」になりそうです。「とれる」の連用形から「朝どれ(の)野菜」となります。▲いくつかの国語辞典は「あさどり」ないし「あさどれ」の見出し語を載せています。大辞林4版は「その日の朝に収穫して、その日のうちに店頭で販売される野菜」として、「朝採り野菜」の形で掲載していますが、この形が優勢という判断があったのか。表記も「朝取り/れ」「朝採り/れ」で揺れています。皆さんにとってなじみやすい形はいったいどの形でしょうか。
(2023年04月03日)