「輸入先」という書き方について伺いました。
目次
4分の3は言い換え推奨
日本の原油の「輸入先」は主に中東諸国だ――カギカッコの中、どう感じますか。 |
問題ない 10.4% |
違和感はあるが許容範囲 13% |
原油は日本側に移動するので「輸入元」としたい 76.6% |
貿易で品物を送り出す側について「輸入先」という呼び方を使うことをどう感じるかは、4分の3が「輸入元」のような言い換えが望ましいとしました。品物の受け手からすると、輸入をする先方に当たるので「輸入先」が使われるのかもしれませんが、「輸出先」に違和感がないのと比較すると、納得しづらい言い回しのようです。
「先」の意味するところは
「先」にもいくつかの意味がありますが、国語辞典を引いてみて今回の質問の場合に関係がありそうなのは、
(前略)⑦相手。先方。「訪問先・融資先・先様」(中略)⑪目的・到着の場所。「旅行先」
(三省堂国語辞典8版)
(前略)②物・作用等が向かう所。(ア)進んで行く前方。↔後(あと)・後ろ。「この先は海だ」「先を払う」(先払いをする)(イ)行き着く目的地・目的物。「行く先」「手紙のあて先」(ウ)商売や交渉の相手「旅費は先で持つ」
(岩波国語辞典8版)
のような説明でしょう。要するに物事の働きが及ぶ対象を「先」と呼びます。取引の対象なら「取引先」、荷物を送る対象であれば「送り先」といった具合です。貿易の場面を考えれば「輸出先」は素直な言い回しです。
「輸入先」の場合は、自分を輸入する側と考えた場合、「輸入」という物の移動のベクトルは自分の方に向かう、つまり自分の方が「送り先」であるにもかかわらず、商取引の相手としては、物の送り手が「先方」として捉えられている。こうした矢印の指し違いが「輸入先」という言葉の中にねじれを生んでいると考えられます。
「輸入元」も最善とは言えないか
こうしたねじれを回避するために「輸入元」という言い換えを提案しました。こちらの言い方なら、輸入する品の送り手側が「元」になるため、ねじれは生まれません。ただ実際にこちらがよく使われているかというと、そうでもありません。毎日新聞の記事データベース(東京紙面、地方版除く)で過去30年分の記事を検索すると、「輸入先」が274件、「輸入元」は367件と、さほどの差はつきません。
また、現代日本語書き言葉均衡コーパス「少納言」で検索してみると、「輸入元」を使う場合は「製造元○○、輸入元××」のように、輸入を引き受ける会社を指す場合が多く、これでは輸入の相手である国・土地という意味では使いにくいように見えます。
違和感には留意が必要
今回のアンケートでは「輸入先」に違和感を示す回答が多く、注意の必要な表現だと考えますが、これぞという解決策を示すのは難しいとも感じました。とはいえ質問文の場合には「輸入相手」のような書き方もできるでしょう。「輸入先」は字数も少なく、手軽な言い方なのかもしれませんが、おすすめはしにくい表現だと言えます。
(2023年04月06日)
「欧州連合(EU)にとってロシアは天然ガスの最大の輸入先だ」――ごくありふれた文ですが、出題者はいつもこの「輸入先」にモヤモヤしています。この文で言うと輸入するのはEU側なので、物の動きのベクトルはEU側を指しています。にもかかわらずロシアが輸入「先」と表現されるのに釈然としないのです。▲「○○先」という言い方は「物・作用等が向かう所」(岩波国語辞典)を表すことがあると説明されます。同辞典はさらに使い方を細かく分けて「行き着く目的地・目的物。『行く先』『手紙のあて先』」「商売や交渉の相手。『旅費は先で持つ』」のような説明を施しています。▲「目的地」として捉えるなら「輸入先」はEUの方に思えます。ロシアの側は「輸入元」とでも表現すべきでしょうか。一方で「相手」と捉えるなら「輸入先」がロシアであってもおかしくはないのかもしれません。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2023年03月20日)