今年のある日、「国立がん研究センター」について報じる記事の見出し案で「がん研」という略称が出てきた。引き継ぎ帳を確認すると、最近も同様のミスがあったが「がん研」は「がん研有明病院」などを運営する「がん研究会」の略称で、国立がん研究センターの略称は「がんセンター」なので注意、とあった。冒頭のケースは、すぐに「がんセンター」と直すことができて事なきを得た。
昨年の紙面づくりで悩まされたのが「大阪市立高」。「大阪市の市立高校」のつもりでこう書くと、大阪府枚方市にある「大阪市立高校」という名の高校と紛らわしくなってしまう。また、毎日新聞では「京浜急行電鉄」の略称を「京急電鉄」としており、「京浜急行」は使わないことにしている。数年前までは両者が混在していたが、同社が決めたという略称にそろえている。どちらも毎日新聞で使われている用語集には載っていないが、社内で実際に注意喚起された事例だ。
スポーツ面の見出しでは、米大リーグのイチロー選手(ヤンキース)やダルビッシュ有選手(レンジャーズ)を「イチ」「ダル」とすることがある。経済面などの見出しでは「パナソニック」が「パナ」と略されることも。「マクドナルド」は、東京管内では「マック」、大阪管内では「マクド」とすることが多い。マクドナルドの「ENJOY!60秒サービス」について取り上げた東京管内紙面の特集記事を大阪管内紙面で「改造」(レイアウトだけを変えて紙面を組み直すこと)して掲載する際、見出しの「マック」を「マクド」に変えたこともあったほどだ。
用語集には「がん研」をはじめ、取り決められた多くの略称が載っている(=写真)。一方で「イチ」「ダル」「パナ」「マック、マクド」のように、取り決めるまでもなくいつの間にか定着しているものも多い。いつの間にか定着しているような略称は、リズム感やテンポのよさが絶妙であったりする。だからといって何となく略してしまうと、逆に紛らわしくなったりする。略称の面白いところだと思う。
【武田晃典】