師走の総選挙まっただ中です。民主主義の基盤である選挙は、報道機関として重要なイベント。特に国政選挙は、新聞社の総力戦といわれます。膨大に出稿される関連記事で、改めて確認しておきたい「間違えやすい言葉遣い」をまとめました。
目次
「衆院選の告示」?
基本中の基本ですが、毎回何度か遭遇する間違いなので油断できません。衆院選は「告示」ではなく「公示」。一般に広く伝えること、という言葉の意味自体は、あまり違いがないのですが、選挙ではどちらを使うかはっきり決まっています。
「公示」は衆院の総選挙と参院の通常選挙だけで、天皇が詔書で選挙期日を示します。そのほか国会議員の補欠・再選挙や地方自治体関連の選挙などはすべて「告示」。衆院選では併せて最高裁判所裁判官国民審査も行われますが、衆院選公示と同じ2日、こちらは告示されました。毎日新聞では外国の選挙も「告示」に統一しています。
「現職が知名度を生かして戦う」?
衆院選の時に意外にうっかりしやすいのは、解散時に全員失職しており、「現職議員」がいないこと。解散した後も「○○衆院議員」という肩書のままの原稿が見受けられましたが、「前衆院議員」にしなければなりません。
参院選や他の地方自治体の選挙は通常、任期満了前に行われるため、前回選挙で当選した人は次に当選した人が就任するまで現職ですが、たまに任期途中での辞職や解職が理由だったり、諸事情で任期満了後に行われたりすることで、現職がいなくなる特殊な選挙があります。衆院選では1976年12月、任期満了に伴い解散せずに行われた選挙では議員が現職のままという例外のケースがありました。
「投票日に20歳の誕生日を迎える最も若い有権者」?
一般的な満年齢の数え方では、誕生日に年をとります。新聞でも普通は人物の年齢をその人の誕生日付の紙面から一つ増やします。しかし、法的には「誕生日の前日」に年をとることになっているので、今回選挙で最も若い有権者は、20歳になる誕生日が投票日の12月14日ではなく、15日の人です。
被選挙権の計算も同じ。投票日の翌日、15日に25歳の誕生日を迎える人までが今回の選挙で立候補可能でした。選挙報道では公示(告示)後、年齢を一律で投票日現在にするのが普通ですが、この法律上の年齢を示すためというのが大きな理由です。
余談ですが、4月1日生まれがいわゆる「早生まれ」になるのも同様の理由。4月1日が誕生日の人は、法律上3月31日に年をとるため一つ前の学年になり、4月2日生まれの人から次の学年になるわけです。
「○○党の獲得議席が過半数を超えた」?
今回はさすがに弱気すぎる目標ではないかと物議を醸しましたが、安倍晋三首相も「与党で過半数を得られなければ退陣する」と発言しました。どんな議員選も過半数を押さえ、議会を主導できる多数派になるかどうかが第一のポイントです。
「過半数を超える」はよく見る表現なのですが、「過半数」は普通「全体の半分よりも多い数」。今回の衆院選(定数475)でいえば、238〜475の範囲を表すことになります。特定の数ではないので「超える」というのは変です。
ただ実際には「今回選挙の定数は475議席で、過半数は238」のように特に過半数のうち一番小さい数を言うこともあるので「過半数を超す」は今回「239以上」になることを示す表現ということはできます。しかし、選挙の場合、重要なのは半数を超えるかどうか(今回は238以上かどうか)なのですから、やはり「過半数に達する」や「半数を超す」の方がふさわしいでしょう。