中学校、あるいは高校で、作文やリポートを書く際、「新聞記事を手本にしなさい」と言われた経験を持つ方は多いでしょう。
5W1Hが明確で、難解な表現が少なく簡潔なことが、新聞記事の特徴といわれています。誰が読んでも意図が伝わる文章――これが新聞記事の目標です。
私たち校閲記者は、自ら記事を書くことはほとんどありません。このブログで再三お伝えしているように、正しい記事となっているか確認するのが仕事です。新聞を購読してくださる方々より、ひと足早く記事を目にする読者であります。
用字・用語を正すことはもちろんですが、表現に誤りがないか、自然な日本語で書かれているかチェックすることもまた私たちの仕事です。
というわけで、作文は上手ではないかもしれません。しかし、その上手、下手を見分けるのはうまい。少なくとも、そうあらねばと心しています。
上手な文章とは、どんなものでしょう。文学作品になると、個々人の好みもあり、また、一校閲記者の手には負えませんから、新聞記事を念頭に考えてみます。
まず気がつくのは、分かりやすい記事は一文、すなわち句点(。)までが短いことです。毎日新聞は第1面などを除き、基本的に1行10字で編集しています。読みやすい記事は、ひとつの文が長くても6、7行。その際も、読点(、)を巧みに使っています。
実は、ワープロの普及以降、新聞記事も一文が長くなる傾向にあるようです。文章の「切り張り」(コピー・アンド・ペースト)が容易になったせいかもしれません。
無駄がないことも、新聞記事の特徴です。紙面に掲載できる量に制限があるためです。余分な表現をそぐことで、少しでも多くの情報を盛り込みます。
以下に、編集段階で削った例(《》部分)を挙げます。
「御利益があると《いうふうに》いわれている」
「A社の発注を受けた製品の《A社への》引き渡しが遅れている問題で……」
「斜め後ろに立つ大統領《の方》を振り返って語った」
無駄をそぐことで、表現が簡明になります。さらには、文も適宜短くなるわけです。
よい文章は、声に出して読んでみると分かります。つっかえてしまう文章は、きっとどこか書き直しが必要なのです。
以上、書き手ではなく、読み手の立場から……。
【高橋努】