by Taisyo |
「くす玉開花」との表現に出合ったのは昨秋のことです。東海道新幹線が開業して50年の節目の日で、東京、新大阪など各駅で記念式典が行われました。東京駅での式典の写真には「テープカットとくす玉開花も行われた」という説明が付いていたのです。くす玉割りではなく開花?と、やや引っかかりました。
くす玉とテープカットといったら道路の開通式や施設の開所・開園式など、スタートを祝う式典には欠かせないものです。関係者、来賓らが紅白のテープの前に一列に並んで一斉にハサミを入れ、くす玉のひもを引くと色とりどりのリボンや紙吹雪、垂れ幕が現れる――。このおなじみの光景は半世紀前の東京駅でも見られました。
1964年10月1日、東海道新幹線が開業しました。当日の夕刊(東京本社版)は1面で「“新しい鉄道時代”幕あけ 東海道新幹線・営業運転始まる」との見出しで報じています。記事の書き出しはこうです。「東海道の新しい大動脈――待望の東海道新幹線は1日開業した。午前6時、東京―新大阪515キロを4時間で結ぶ超特急ひかり1号が東京駅を、ひかり2号が新大阪をスタートした。最高時速210キロ、世界一の快速列車の開通で“新しい鉄道時代”の幕はあけた」。紙面の左上に出発式の写真が載り、大勢の関係者に見守られながら新幹線の横でテープカットをする石田礼助・国鉄総裁、後方にはくす玉が写っています。出発式で「舞いあがるハト、打ち上げ花火が鳴りわたる。万歳と拍手のあらし」の中、国鉄の幹部は無事故運転を祈ったと記事は伝えています。
それから50年後の2014年10月1日の東京駅。50周年式典の模様は毎日新聞のニュースサイトにも掲載され、その写真説明が「下山田稔・東京駅長の合図で出発するのぞみ1号。出発と同時に東海道新幹線開業50周年を記念し、テープカットとくす玉開花も行われた」だったのです。くす玉開花とは見慣れない表現だったため、あらためて辞書を開いてみました。くす玉について大辞林は「(1)種々の香料を玉にして錦の袋に入れ、糸や造花で美しく飾ったもの。悪疫払いや長寿を願って、端午の節句などに柱・壁などにかけた(2)1をまねた飾り物の玉。七夕飾りや式典の飾りとし、割れると中から紙吹雪やテープ、ハトが飛び出すものもある。飾り花。『―割り』」と用例も載せて説明しています。そうか、飾り花だから開花と結びつくのか!と合点がいきました。
ためしにくす玉開花をキーワードに過去の記事を検索してみるとイベント情報1件を含む3件のみで、インターネットでは1万5000件以上の検索結果となりました。辞書の用例が示すように原稿でくす玉割りと書くことに何ら問題はありません。しかし、忌み言葉といって、例えば結婚式で「切る」「別れる」などの言葉を避けたり、「スルメ」を「アタリメ」、「終わる」を「お開きにする」と言い換えたりすることがあります。主催者側からしてみると、祝いの式典では「割る」を避けたかったのだろうと想像できます。
今春のダイヤ改正で、のぞみの一部列車は最高速度が時速285キロになり、東京―新大阪間は現在の最短2時間25分より3分程度短縮されるといいます。くす玉開花からは、これからも無事故で走り続けられるように、そんな願いが読み取れます。
【中村和希】