読めますか? テーマは〈政治家の発言〉です。
目次
穿った
うがった
(正解率 97%)安全保障関連法案について岡田克也・民主党代表は「うがった見方をすれば、わざとわかりにくくするようにしているのではないかとすら思える」と述べた。「うがった見方」は文化庁の「国語に関する世論調査」によると「疑って掛かるような見方をする」という意味と答えた人が本来の「物事の本質を捉えた見方をする」より多かった。
(2015年06月22日)
選択肢と回答割合
うがった | 97% |
かじった | 2% |
くぐった | 2% |
鮴
ごり
(正解率 48%)淡水魚カジカの異名。また、川にすむハゼの一種。夏の季語で、金沢の料理が知られる。ゴリの漁法は「ごり押し」の語源となったとの説がある。現在、漁のごり押しは廃れたそうだが、永田町辺りではどうか。民主党の岡田克也代表は「与党のごり押しを許さないことが大事」と述べた。
(2015年06月23日)
選択肢と回答割合
いけす | 36% |
ごり | 48% |
とど | 16% |
拘泥
こうでい
(正解率 85%)必要以上に気にしてとらわれること。自民党の高村正彦副総裁は、衆院憲法審査会で憲法学者3人がすべて安全保障関連法案を違憲としたことに対し「憲法学者はどうしても(交戦権を否認した)憲法9条2項の字面に拘泥する」と述べた。
(2015年06月24日)
選択肢と回答割合
くでい | 9% |
こうでい | 85% |
すり | 5% |
軌を一にする
きをいつにする
(正解率 84%)考え方が同じこと。中国の「北史」などの故事から。集団的自衛権の行使容認は1959年の砂川事件最高裁判決と「軌を一にする」と中谷元(げん)防衛相らは言うが、砂川事件の裁判は集団的自衛権が争点ではない。こじ(故事)つけ?
(2015年06月25日)
選択肢と回答割合
きをいちにする | 8% |
きをいつにする | 84% |
きをひとつにする | 8% |
詳らか
つまびらか
(正解率 92%)細かい点まではっきりしていること。安倍晋三首相は1945年に米国などが日本に降伏を迫ったポツダム宣言について「つまびらかに読んでいない」と述べた。「審らか」とも書くが、いずれも常用漢字表にない訓なので新聞などでは平仮名にしている。
(2015年06月26日)
選択肢と回答割合
あきらか | 7% |
つぶらか | 2% |
つまびらか | 92% |
◇結果とテーマの解説
最も正解率が低かったのは「鮴」。常用漢字ではなく、ふだん仮名で使われますから予想通りでした。「ごり押し」の語源とされ、「地団駄は島根で踏め (光文社新書)」(わぐりたかし著、光文社新書)にはゴリ漁の体験リポートがあります。
板を左右にゆすって、文字通り、ごりごり、ごり押しして小石や岩を動かし、その下で休んでいるゴリをびっくりさせる。ゴリを漢字で書くと、魚ヘンに休むで「鮴」だ。文字どおり、岩や小石の下にじっと隠れて休んでいる。だから川底をひっかきまわすとびっくりして飛び出す。
しかし、面白い語源説は往々にして眉に唾をつけたほうがいい場合があります。ごり押しの「ごり」は単純にゴリゴリという擬態語からかもしれません。
他の漢字は比較的易しいと思っていましたので、80%以上の結果も想定内。ただし常用漢字で使用頻度も多い「軌を一にする」「拘泥」を抑え「穿った」が最も高い数字というのは意外でした。一般的にも平仮名が多いと思われますが……。
2011年度の「国語に関する世論調査」で「うがった見方」の解釈が取り上げられたときも、文化庁の調査なので当然ですが、平仮名が使われていました。その結果を受け文化庁国語課はウェブサイトの「言葉のQ&A」というシリーズに「『うがった見方』は、良くないのか。」という文章を掲載しています。
示唆に富む分析なのですが、今おやっと気づいたのは、寺田寅彦の引用中「週刊ロンドン・タイムス」とあるのに、それを受けた文中に「週間ロンドン・タイムス」とあることです。「週間」は「週刊」の間違いでしょう。
文化庁は国語世論調査で取り上げた言葉の使い方をコントめいた動画で紹介していますが、そんなことに予算を使うより校閲的なチェック体制はどうなっているんだか。まあそれはいいとして(よくないか)、2014年7月2日アップですからちょうど1年、読者からの指摘もなかったということですかね。皮肉ではありませんが、あまり読まれていないということかもしれず、気の毒という気もします。わが毎日新聞でも、間違いが誰の指摘も受けず放置されたままにならないよう「他山の石」にしたいものです。
閑話休題。「軌を一にする」はたまに「期を一にする」という誤字を見かけます。試みにグーグルで「きをいちにする」と打つと予測変換候補に「期を一にする」が出てきました。正確な読みを覚えていないと誤字を呼び込むことにつながる一例です。ところで「機を一にする」も間違いと思っていましたが、「明鏡国語辞典」第2版によれば「『機を一にする』は時期を同じくする意」と別語としています。しかし慣用句としてはなじみがないので、なるべく別の語にしたほうがよいと思われます。
「拘泥」は「くでい」という誤答が思いのほか少なくありませんでした。拘は訓で「こだわる」。この言葉は最近いい意味でも使われますが「拘泥」はそうではありません。だから「憲法学者はどうしても憲法9条2項の字面に拘泥する」という高村正彦自民党副総裁の発言にも使われたのです。が、憲法学者が字面にこだわるのは当然でしょう。本当は政治家もこだわるべきではないでしょうか。
最近は政治家の発言が次々とニュースになるので既に昔めいた印象さえありますが、安倍晋三首相がポツダム宣言について「つまびらかに読んでいない」と言ったことが話題になりました。「つまびらか」という言葉そのものは知られていると思いますし、今回の漢字クイズでも9割以上の人が読めています。ただ一般的には「詳しく」を使いますよね。国立国語研究所のサイト「少納言――KOTONOHA『現代日本語書き言葉均衡コーパス』」(追記:2021年に公開休止)で検索してみました。すると、68件の「つまびらか」のうち大半が国会会議録からとなっています。無作為抽出されたサンプルのはずですが、用例が国会会議録に極端に偏っているのです。国会の常用語が一般的な使用実態から遊離している一つの例といえるでしょう。それはともかく、首相がポツダム宣言を「読んでいない」と言ったのは「読んだけれど認めたくない」というのが正直な気持ちかもしれませんね。
さて、安保論議や戦後70年首相談話など、政治家の言葉が普段以上に注目される状況はまだまだ続きます。今後もしっかりウオッチしたいと思います。