「住民」と「住人」の違いはなんでしょうか? 新聞記事では基本的に「(地域・周辺の)住民」「(特定の家の)住人」と区別しています。辞書を見比べると他にも使い分けが考えられそうです。この説明が付いた写真は、事件現場の周辺に住む人から提供を受けたものでした。当初「住人提供」となっていましたが「住民提供」としました。「近隣住民提供」などとすることもあります。
いくつかの辞書で「住民」と「住人」を引いてみました。
デジタル大辞泉
「住民」……ある一定の地域内に居住している人。
「住人」……その家、またはその土地に住んでいる人。
明鏡国語辞典
「住民」……その土地に住んでいる人。
「住人」……その家や土地に住んでいる人。
日本国語大辞典
「住民」……その土地に住んでいる人。居住している人。
「住人」……住んでいる人。その土地に住む人。住民。
新明解国語辞典
「住民」……その地域一帯に住んでいる、一団の人びと。
「住人」……その地域(場所)に住んでいるひとりびとり。
三省堂国語辞典
「住民」……その土地に住む人びと。
「住人」……そこに住んでいる人。
デジタル大辞泉と明鏡国語辞典は、「住人」の項のみに「家」の文字があります。地域や土地だけでなく個々の家が想定されているということでしょう。ニュース記事での使い分けに通じます。
日本国語大辞典ではほぼ区別がありません。「住人」の項に「住民」と書いてあります。ただ、これは用例の採り方など、日国の特徴によるものでしょう。
目を引くのは新明解国語辞典と三省堂国語辞典が複数と単数で分けていることです。特に新明解は「住民」の項に「地域一帯」「一団」とある上、「住人」はわざわざ「ひとりびとり」と説明されており、違いが強調されている印象です。
確かに、記事に出てくる「住民」もほとんどが複数です。「住民が里山再生に協力」「住民の証言を集める」「原発の安全性に不信を持つ住民の理解が得られるか」「住民投票」など。地域など広い範囲を指す以上、自然とそうなるのかもしれません。
上の提供写真のケースは例外的です。複数という条件には当てはまりませんが、「住人」と区別する方を優先して大抵の場合は「住民」としています。「住人」は事件の記事などに「この家に住む人」という意味で頻出しますので、新聞的には意味を絞りたいという意識が働くのかもしれません。複数でないなら「住民の男性・女性」などと書ければ隙(すき)がありませんが、ここではそういうわけにもいかず悩ましいところです。
簡単な言葉でも辞書を引き比べると新たな発見があり、解像度が上がります。メディアにはメディアならではの言葉のルールもありますが、そのルールを作る際にも、多くの辞書を参考としています。