最近の「リアル」の用法について伺いました。
目次
口頭なら8割が許容
オンラインイベントが目白押し。一部は「リアル」でも開催――カギの中、どう感じますか? |
違和感はない 38.9% |
話し言葉ではよいが、書き言葉では違和感がある 43% |
違和感が強く、他の言葉に言い換えたい 18.1% |
「オンライン」の対義語として「リアル」を用いることについて、4割の人が「違和感はない」と回答しました。「話し言葉ではよい」との回答も合わせると、8割を超える人が許容しています。21世紀になってから広まったとする辞書もある新しい用法ですが、かなり浸透していることがうかがえました。
「オンライン」「バーチャル」の両方に対応?
「リアル(英:real)」とは「現実のこと。また、現実的であるさま。ありのままであるさま。写実的。実際的」(日本国語大辞典2版)。多くの辞書がこの意味だけを載せています。
質問文のような使い方については、三省堂国語辞典8版が「〔仮想ではなく〕現実〈に/で〉あるようす。また、現実」という語釈を載せた上で「リアル〔=現実の生活〕が充実している」「リアル書店」「リアルの〔=オンラインでない、対面での〕講義」など多くの具体例を示し、「21世紀になって広まった用法」と解説しています。一方、三省堂現代新国語辞典6版は「〔仮想ではなく〕現実にあるようす」との語釈を載せ、対義語は「バーチャル」だとしています。
「オンライン」の対義語として「リアル」を用いることに違和感があるとすれば、「リアル」と対になる「バーチャル」とのギャップに由来するのかもしれません。インターネット上に存在するものは、会社や学校など身の回りの日常生活とは違う世界ですが、大抵の場合は現実に存在しないものではありません。
しかし「オンライン」ではないもののことを「リアル」と表現すると、まるで「オンライン=リアルではない=バーチャル」であるような印象を与えます。「オンライン」であっても端末の向こうには生身の人間がいて、仮想ではなく現実(リアル)の人間関係であることには変わりないのだから、その対比はおかしいのでは、という違和感には理由があると感じます。
コロナ禍も浸透に影響か
アンケートでは「違和感はない」と「話し言葉ではよいが、書き言葉だと違和感がある」との選択肢を分けて用意しましたが、4割もの人が「違和感はない」を選ぶという結果はやや意外でした。口語的な印象が強く、新聞記事で使われていたら違和感があるのではないかと出題者は考えていましたが、思った以上に受け入れられていることがわかり、新鮮な発見でした。新型コロナウイルスの影響で、これまでは当たり前に対面で実施されていたイベントや講義がオンラインで行われる機会が飛躍的に増えたことも関係しているかもしれません。
毎日新聞では「リアル店舗」は2000年、「リアル書店」は06年に初めて紙面に登場しました。いずれも「インターネットで買い物ができるオンラインショップ」と対比する文脈です。「リアルの講義」「リア友」などの表現についても、わざわざ「リアルの」と付け加える場合には、対となる「リアルではない」ものがいつも想定されています。
それまで単に「書店」や「講義」だったものが、オンライン書店やオンライン講義の登場と普及によって区別して呼ばれる必要が生じ、「リアル」という表現がその需要にフィットしたようです。実物を手に取って確かめることができる店、目の前にあって接触でき、声や温度を感じられる人や物……「リアル」はその物理的で、生身のイメージを伝えやすい言葉として、一定の市民権を得ていることがアンケートの結果からもうかがえました。
再定義される言葉たち
当たり前が変われば言葉も変化します。インターネットでできることが増えるのと同時に、感染症の流行がこのまま続いて日常生活の大部分がオンラインになったなら、単に「講義」と言った時のデフォルトの意味が「オンライン講義」になるような逆転も起きるかもしれません。対になる概念や比較対象の出現によって、既存のものには新たな名前が与えられ、再定義されます。言葉が相対的なものであることを、改めて実感させられるようです。
新しい「リアル」に対し、背景にある社会の変化を意識しながら、当面は口語的になりすぎないような言い換えも提案していく、状況に応じた言い換えのレパートリーを増やしておく――という姿勢が校閲としては「現実的」でしょうか。バランスが難しいのですが、アンケートの結果もヒントになってくれそうです。
(2022年04月01日)
同僚が読んでいた、企業の記念事業の告知原稿に「さまざまなオンラインイベントを配信します。一部はリアルで開催」とありました。▲「リアル(real)」は「現実」のことですが、近年では「オンライン」の対義語としても使われます。三省堂国語辞典8版は「リアル」について「(仮想ではなく)現実にあるようす」として、「リアル書店」「リアルの(=オンラインでない、対面での)講義」などの用例を挙げた上で「21世紀になって広まった用法」だと説明しています。▲身近なところでは「リア充(実生活が充実している人)」や「リア友(学校や職場などで直接知り合った友人。オンラインで知り合った人との対比で言う)」などの表現も聞かれるでしょうか。▲新聞に載る文章としては口語的すぎるのではないかとの考えの下、冒頭の原稿は「一部は会場でも開催」と直すことになりました。しかし、うまい言い換えだったとも思えず、必要な直しであったかどうか自信がありません。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2022年03月14日)