三省堂国語辞典の8版が出版されたので、気になっている言葉を引いてみました。「補強」です。
ほきょう[補強]《名・他サ》弱いところに手を加えて、もっと強くすること。「堤防の―工事・投手陣の―」
これを見て「やっぱりなあ」と思い、少しがっかりしたのですが、むろん三省堂国語辞典が特に変な説明をしているわけではありません。
目次
辞書は「補強」をどう説明しているか
他の辞書も見てみましょう。
・弱いところ、足りないところを補って強くすること。「土台を補強する」(岩波国語辞典8版)
・弱いところを補って強くすること。「堤防を補強する」「補強材」(明鏡国語辞典3版)
・弱い所を手入れしたり足りない所を補ったりして、強くすること。「補強を図る/補強工事・補強材」(新明解国語辞典8版)
・弱い部分や足りないところを補って強くすること。「投手陣の補強に力を入れる」「堤防を補強する」(大辞泉2版)
・弱点や不足を補って強くすること。「土台を補強する」「営業部の補強を図る」(広辞苑7版)
・足りない所や弱い所を補ったり強くしたりすること。「橋のいたんだ部分を補強する」「戦力の補強」(大辞林4版)
どうも投手陣がふがいないらしい、というのはともかくとして、似たり寄ったりと言って差し支えなさそうです。弱いところを強くすること、それが当たり前の説明なのです。
「阪神はマルテを強くした」?
しかし、このような言い方は辞書の説明から見てどうでしょうか。
「阪神は米大リーグからマルテを補強した」
阪神はなにもマルテを強くしたわけではありません。マルテを呼んでチームを強くしたということです。スポーツ記事ではよく見られる言い回しなのですが、上で見てきたような辞書の説明とはなじみません。
社会人野球の都市対抗野球大会では、予選を勝ち抜いたチームが本大会に出る際、同地区で敗退したチームの選手を呼んで、チームを補強することができます。画像の記事中の選手は「他チームに補強され」て本大会に連続出場しているというのですが……。
この場合も「補強」されるのは、辞書の説明に沿うならチームの方で、「他チームに補強のために呼ばれ」とするような書き換えは可能です。しかし、原文通りの「補強され」でもすんなり読める人は多いだろうと思います。
こうした今までの辞書にないケースも拾って説明してくれそうなのは三省堂国語辞典ではないか、と思って8版をめくってみたのですが、残念ながら取り立てての説明はありませんでした。
辞書に説明を足すならば
辞書に説明を付け加えるとしたら、いま載っているような説明を項目①として、項目②に「①のために人やものを受け入れること」のような言い方を入れることが可能でしょうか。あるいは「弱い所や足りない所を補って強くすること、またそのために人などを受け入れること」のような説明もできそうです。
辞書にいちゃもんをつけているように見えたら申し訳ないことです。ただ、目にする用例と辞書の説明を見比べながら、「辞書にないけど間違いとは思えないよなあ」ということを繰り返している校閲記者の仕事の一コマを感じていただければと思った次第です。