「予想の斜め上」という表現の意味を伺いました。
目次
「意外で予測不能」が6割占める
「予想の斜め上だ」という表現、単に「予想以上」というのとどう違うでしょうか? |
独創的だと称賛している 11.7% |
ピントがずれているとあきれている 16.7% |
意外で予測不能だと驚いている 60.2% |
この表現を知らない 11.3% |
「意外で予測不能」という意味を選んだ人が6割と圧倒的でした。独創性を褒めるとか、ちょっとズレているとあきれるといった捉え方をする人はそれぞれ1~2割で、まずは驚きを表す言葉であるようです。
予想外の展開に使う言葉
「斜め上」のこの意味は、現時点では国語辞典に見当たりませんが、2015年に三省堂の辞書編集者による「今年の新語」第10位として取り上げられました。「三省堂国語辞典風」というその語釈を見ますと、
①ななめにずれた、上がわ。「右-」(⇔斜め下)②〔俗〕それまでの流れからは考えられないこと。「予想の-を行く展開・-の反応」
とあります。②が今回の用法ですね。「俗」とあるようにネットスラングとして多く見られます。
ヤフーのリアルタイム検索でツイッターの投稿内容を見てみると、24時間で1500超の「斜め上」がヒットしました。「想像の斜め上の可愛さ」「毎回斜め上を行く展開」「斜め上過ぎて理解不能」といった「俗」の用法が大半で、単に位置関係を示すものは少数。検索したのが木曜の夜だったからか、ドラマ「ドクターX」で田中圭さん演じる森本医師を「斜め上設定」などと評するツイートが目立ちました。
このリアルタイム検索には、ツイート時の感情を自動で判別する機能があります。出題者が見たタイミングでは、ポジティブ63%に対してネガティブ37%。もちろんどちらとも言えないツイートもあり、全て正確に判定されているわけではないでしょうが、明らかな偏りはないと思われます。「可愛さ」というプラス側、「理解不能」というマイナス側の両方につなげて使われていますし、多かったのは「斜め上なやつ来たw」というような、予想外の展開を面白がるツイートでした。
“三国”が「斜め上」を採録
さて先ほど「現時点では」国語辞典に見当たらないと書きました。この状況は12月17日、三省堂国語辞典8版の登場をもって終わります。新語の収録に定評のある三国が「斜め上」を収録したのです。
11月中旬に取材した時点では、「今年の新語」の時と同じ語釈になるようです。6年前に既に完成されており、その後も同様の使い方がされてきたということでしょう。
ただもっと具体的なニュアンスを書けなかったのか。編集委員の飯間浩明さんに伺うと、「個人によって見方が分かれる言葉は、ニュアンスといいますか語感まで書けないですね。個人個人の語感というのは辞書が踏み込みにくい領域ではないか」。主観を排除した「斜め上」の説明は、こうなるということです。実際にリアルタイム検索の結果、今回のアンケートの結果を見ても妥当だと思われます。
由来は「レベルE」で決着の模様
しかしそれより、(出題者を含めて)ネットユーザーの多くが知りたいと思っていたのは、この「斜め上」の元ネタでしょう。三国8版では調査の結果、漫画「レベルE」から広まった、と明記しました。実際に読んで当該箇所を確認したという飯間さんによると、ネット上では漫画「パタリロ!」が元になっているとも言われていたが、具体的な出典情報は見つからず、「パタリロ!」説には根拠がないと判断したそうです。
「あいつの場合に限って常に最悪のケースを想定しろ。奴は必ずその少し斜め上を行く!!」。これが「レベルE」のセリフ。ひねくれた性格で何をしでかすか分からない「バカ王子」を捜している護衛隊長が部下に説教する場面です。
単に程度が甚だしいというだけでなく、もう一つ予想外の方向に展開する……その「斜め上」っぷりは漫画で実際に読んでいただくとして、「斜め」「上」という基本語にここまでの表現力を持たせた作者の冨樫義博さんに感嘆するばかりです。三国とはスタンスが異なり、編者の主観を前面に出す「新明解国語辞典」風の語釈も読んでみたいものです。
(2021年11月26日)
今年のノーベル文学賞はタンザニアのアブドゥルラザク・グルナ氏に決まりました。これについてテレビのインタビューを受けていた人物が「ノーベル文学賞はいつも予想の斜め上を行きますから」と答えているのに耳が反応しました▲仲間内ではよく使われる言葉ですが、批判的なニュアンスで使われることが多いように感じていました。例えばひいきのプロ野球チームの監督がセオリーを無視した采配をして裏目に出ると、「この監督はほんと斜め上なことをやるなあ」などと嘆きます▲しかし今回のテレビコメントは、ただ予測不能だということを強調しているように思えます。また「予想の斜め上を行く衝撃」などと称賛の意味で使っている芸能ニュースも見つかります。使われ方は定まっていないようです▲現在出版されている辞書には見つけられませんでしたが、12月発売の三省堂国語辞典8版では「斜め上」が新規項目として追加されるそうです。その語釈も待ちながら、まずは皆さんに伺ってみたいと思います。
(2021年11月08日)