「追撃」を「追い上げ」の意味で使うのをどう感じるか、うかがいました。
目次
「直したい」が過半数占める
「追撃」むなしく1点差で敗れた――この使い方、どうですか? |
問題ない 20.4% |
違和感はあるが、許容範囲 25.2% |
違和感がある。「追い上げ」に直したい 54.4% |
「違和感があり、直したい」と回答した人が半数を超え、「問題ない」「許容範囲」とした人を上回りました。スポーツなどにおいては「追い上げ」の用法も認められつつありますが、“本来”の「追い打ち」の意味で使用した方がよいでしょう。
スポーツにおいて意味に変化も
「追(い)撃(ち)」と読めることからもわかるように、「追撃」の原義は「追い打ち(追い撃ち、追い討ちとも。毎日新聞は追い打ちに表記を統一)」と同じです。辞書では「敗走する敵をおいかけてうつこと。劣勢にある相手をさらに攻めること。おいうち」(日本国語大辞典2版)と解説しています。もともとは戦闘において、逃げる敵を追いかけてさらに攻め立てることを指していたのですが、スポーツなどの戦いにも用いられるようになったことで、使われるシチュエーションが変化しつつあります。
スポーツの中でも格闘技など戦闘に近いものであれば、“本来”の意味で「追撃」が用いられます。例えば相撲なら「追撃の突きで土俵下へと落とした」といった具合です。しかし、点数(ポイント)やタイムで争う勝負では、試合終了までに多くのポイントを獲得した側や、先に決められたライン(ゴール)に到達した側が勝利します。こういった競技では、「先行逃げ切り」のように逃げる側が有利なケースがあり得るため、「逃げる敵=劣勢にある相手」という図式が成り立たなくなります。
毎日新聞では「追い打ち」の意味に限定
野球を例にとって考えてみます。「追い打ち」の原義にのっとれば、「追撃=“劣勢の相手”を攻め立てる」となるので、「四回に勝ち越すと、六回には追撃の満塁本塁打を放った」のように使われます。一方、「追撃=“逃げる敵”を攻め立てる」と考えれば「追い上げ」を表し、質問文のように「追撃むなしく1点差で敗れた」という書き方になります。
一部の辞書では「スポーツでは、負けているほうが反撃をする意味に使うことがある」(新選国語辞典9版)、「優勢なほうを追い落とそうとすること」(三省堂国語辞典7版)のような記述があり、「追い上げ」の用法を認めるようになってきています。「逃げる敵=優勢な相手」である場合には、こうした「追撃」の用法も誤りとはいえないかもしれません。
とはいえ、負けている相手をさらにたたく場合にも、勝っている相手に反撃を仕掛ける場合にも使えるというのでは、紛らわしいことは確かです。毎日新聞では原義を尊重して「『敗走する敵・劣勢にある敵を追いかけて更に攻めること』が本来の意味。スポーツなどで、先行する相手を攻めるような場面では、『追い上げ』『猛追』などと書く」と用語集で取り決めています。
意味が逆にならない「追い打ち」
ところで、「追撃」は意味が逆になってしまうことがあるのに、「追い打ち」は「逃げている優勢な相手を攻め立てる」の意では使われないのはなぜでしょうか。一つは、そもそも「追い打ちむなしく敗れる」とは言わないので、「追撃」のように混同することがないからだと考えられます。
明鏡国語辞典2版によると、「追い打ち」は「逃げる者を追いかけて討ち取ること。追撃」「打撃を受けて弱っているところに、さらに打撃を与えること。『被災地に感染症の蔓延(まんえん)が――をかけた』」。「追い打ち」は「弱った(=劣勢の)」相手に更に打撃、被害を与えるという意味に限定されているため、「優勢な相手に反撃する」とはならないのでしょう。
一方、「更に攻める」の意味で「追い打ちの満塁本塁打」とするのも見かけないように、スポーツの勝負の描写に用いられること自体が少ないからというのも理由に挙げられるかもしれません。
(2020年11月20日)
猛攻をかけて相手を追うも、反撃むなしく敗れる――。質問文のようなスポーツの場面を「追撃」と表現する原稿をよく見かけます。先に行く相手を「追」いかけて攻「撃」するというイメージから、使用が広まっているのかもしれません。
ところが、「追撃」で辞書をめくってみると、「敗走する敵をおいかけてうつこと。劣勢にある相手をさらに攻めること。おいうち」(日本国語大辞典2版)などとあります。たしかに戦闘の場面を思い浮かべてみると、追いかけて相手を攻撃するような状況であれば、こちらが有利であるはずです。「追」い「撃」ちと書けば歴然ですが、「追撃」は本来「追い打ち」をかけることを意味します。
先行逃げ切りということばがあるように、スポーツの試合では逃げている側が「有利」なケースがありえます。それゆえ相手を追いかけている劣勢の状況にも「追撃」が用いられてしまうわけですが、みなさんはこの使い方をどう感じるか、伺ってみようと思います。
(2020年11月02日)