「寛容」という言葉を反対の意味にした形について伺いました
目次
「不寛容」が6割占める
「寛容」を否定の形にすると…… |
非寛容 19.9% |
不寛容 61.5% |
上二つのどちらでもよい 4% |
上二つは意味が違い、使い分ける 14.7% |
「不寛容」を選択した人が6割を占め、「寛容」を否定する形として定着していることが示されました。国語辞典で見出し語に挙げられているのも「不寛容」です。もっとも、残りの選択肢を合わせると4割が「非寛容」という形もあることを認めており、考えさせられる結果でもあります。
打ち消しの「非」と「不」
「非」と「不」はともに打ち消しの意味を持つ漢字です。代表的な使い方としては、「非」は「白馬非馬(白馬は馬にあらず)」のように「あらず」と置き換えられることが多く、「不」は「人不知而不慍(人知らずしていからず)」のように「~しない」という意味でも使います。ただし、実際には幅広い形で使われます。
「言葉に関する問答集10」(1984年)は「『不合理』と『非合理』」と題した項目で、「例えば『不合理』と『非合理』のように、『不』と『非』の付く場合ではどういう違いがあるかという問題」について説明しています。
「不」が付く場合については、①「……でない」の意味となるもの(不健康など)②「……がない」の意味となるもの(不見識など)③「……しない、していない」の意味となるもの(不安定など)の三つに分類しています。
一方の「非」が付く場合については、「それに該当しない、それ以外である」の意味となるといい、「非公開、非公式、非合法」などを挙げています。しかし、この「それ以外である」というのは、「不」の①、「……でない」と同じようにも見えます。意味としての違いをはっきり示すのは難しいようです。
「非合理」「不合理」の場合は
問答集は
語によっては、「不」しか付かないもの、「非」しか付かないもの、あるいは両方付くものなどがある。右に挙げた「不」や「非」の付いた語は、その「不」や「非」を互いに交換することはできない。
と言います。「不健康」はあっても「非健康」はなく、「非公開」はあっても「不公開」はないということです。
しかし「不合理」と「非合理」のように両立するケースはある。これについては以下のように述べています。
「不合理」「非合理」も互いにほぼ似た意味で用いられるが、一般に、前者が道理に合わないこと、筋の通らないことであるのに対し、後者は哲学用語としても用いられ、知性ではとらえられないこと、理性の範囲を超えていることであるというように、意味あいに多少の相違が認められる。
単に合理的でないという意味では「不合理」「非合理」の両方があり得るが、そもそも「合理」を問うことができない(理性の範囲を超えている)ような場合は「非合理」しか使わないということです。要は意味が異なる場合があるということです。
国語辞典は「不寛容」を掲げるが
さらに他の例を考えてみると、たとえば「不存在」は「債務の不存在確認」のように何かが無いことを指し、「非存在」はそもそも存在が認識されないもの・ことを指します。同じようなことが「不寛容」と「非寛容」の関係にも言えるでしょうか。
辞書サイトのジャパンナレッジを見ると、日本大百科全書では「寛容」の項目に「寛容もその反対の非寛容も多くの実例があるが……」と記されています。回答からの解説でも記したように、多くの国語辞典は「不寛容」を見出し語に掲げますが、ここでは「寛容」の打ち消し語として「非寛容」を取っています。
「非合理」や「非存在」の例にならえば、「非寛容」の方が抽象度が高いと言えるのかもしれません。具体的な場面では「不寛容」(「寛容」がない、足りない)が普通でも、概念としては「非寛容」もありうると。ただ、実際の記事に現れた「社会の分断や非寛容を引き起こす」などといった例を見ると、「不寛容」との違いはあまり感じられないようです。
アンケートの結果から見て、日常的には「不寛容」の方がよく使われる形であることは確かだと言えます。ただし「非寛容」も使われない形ではありません。用法の差はあるともないとも言えませんが、一般的には「不寛容」を用いつつも両方の形を許容してよいのではないでしょうか。
(2020年05月29日)
ある原稿で見かけた「非寛容」という言葉に軽く首をかしげました。「不寛容」が一般的ではないのかな、と感じたからです。
もっとも、否定を表す接頭語の「非」と「不」のいずれもが使われる言葉もあります。例えば「合理」は「非合理」「不合理」のどちらも見ます。また「不人情」「非人情」のように、異なる意味を持たせて使い分ける場合もあります。
「寛容」の場合、辞書の見出し語としては「不寛容」しか見つけられませんでした。しかし、デジタル大辞泉では、「不良品を徹底的に排除すること」などを意味する「ゼロトレランス」の説明として「不寛容・非寛容の意」と載せており、「非寛容」も使われる場合があることを示唆しています。
実のところ「非寛容」は新聞紙面でもそれなりに使用例があったため、結局「不寛容」に直すことはしませんでした。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2020年05月11日)