毎日新聞ではかつて、記事の中で敬称の「ちゃん」「君(くん)」「さん」をどう使い分けるかという原則の規定がなく、用語集で「ちゃん」を「9歳以下をめどとする呼称」と説明していたのが唯一の取り決めでした。
10歳以上は、男子ならおおむね高校生くらいまでは「君」か「さん」、女子なら「さん」というのが使用実態で、9歳以下に「君」「さん」を使うこともありました。記事内容に応じてその時々の語感を優先していたようです。
「ちゃん」の9歳以下という区切りは、俗に「『つ』のつく年齢(ひとつ、ふたつ……ここのつまで)」という言葉の面から線引きしたものです。しかし9歳の子を新聞記事でちゃん付けするのはおかしいのではとの社内の意見などをもとに検討を加え、小学校入学前か後かで区切った方が現在の読者の語感にも近いと考えられることから、原則として「ちゃん」は小学校入学前までと変更しました。2016年春のことです。
これとあわせ、原則として「君」は用いないという取り決めもしました。小学校入学前は「ちゃん」、入学後は「さん」を使います。これはジェンダー的な公正さや、望まない性に基づく敬称に苦痛を感じる子への配慮から、学校現場で「さん」に統一する動きが顕著なことなどを踏まえたものです。また「君」には「同等以下の者を呼ぶ時」(新明解国語辞典第7版)のように上からの言い方のような印象があることも判断の理由です。
もちろん、機械的に「君」を排除すると、記事の内容によってはかえって不自然になることがあるかもしれません。そこで原則に対する例外として「『君』以外の敬称では大きな違和感があり、やむを得ず使用する場合」を想定し、その場合でも「高校卒業までを目安とする」と規定して運用を図っています。
【宮城理志】