仕事中にしばしば出合う、本来とは違う意味合いや、辞書ではあまり見つからない言葉遣い。そんな“気になる表現”にどう対応するか、マスコミ各社の用語担当者が参加する日本新聞協会用語懇談会に報告された2019年秋のアンケート(関西地区新聞用語懇談会で毎日新聞大阪本社が幹事社として主導)からまとめた1回目です。
これらの扱いは用語基準としては決められていないものも多く、回答は各社の公式見解というわけではありませんが、校閲記者ら各社の用語担当がどのように考えるか、その傾向はうかがえます。
ぜひ、一緒に考えてみてください。
回答したのは17社(全国紙・通信社6、スポーツ紙1、テレビ局5、地方紙5)の用語担当者。原則として話し言葉や寄稿文、引用などの場合は除く。
目次
メジャーリーグでの「猛打賞」
猛打賞は日本プロ野球の制度
直す 11社 |
場合による 3社 |
直さない 3社 |
「直す」が多数だった。「猛打賞」をやめて、具体的な安打数にするという意見が多かったが、「わかりやすい」「定着している」としてそのままの使用を容認する声や、「〝猛打賞〟の活躍」とカッコをつけて使うとする社もあった。
直し方として「マルチ安打」も挙がったが、定義が異なるのでそのままの方がわかりやすいという声もあり、実際にスポーツ紙からは「MLBの記事で『26度目のマルチ安打、7度目の猛打賞』などと使っている」という回答があった。一般紙では以前に比べ使われなくなっているという印象も聞かれた。
「後ずれ」
「後ずれ」は辞書などで見当たらず、一般的ではない
直す 12社 |
場合による 3社 |
直さない 2社 |
直すという声が多かった。直し方は「遅れることになった」「後にずれた」「先延ばしとなった」など。
一方で、すでに多く使われており、直しにくいとの声もある。行政や企業の発表文で使われる場合があり、その引用からの流れで使われる傾向があるようだ。
「場合による」とした社からは「俗語的であり直してほしいが、明確に禁ずる決まりはないので、強くはアピールしない」と説明があった。
女性を含む「兄弟」
確実に「姉」や「妹」が含まれるが、「兄弟」でよいか
直す 11社 |
場合による 5社 |
直さない 1社 |
辞書は男女の別なく使えると書いている「兄弟」だが、姉妹を含む場合は「きょうだい」「兄弟姉妹」などに「直す」社が多かった。「直さない」とした社は「不特定の場合は直さなくていい」。
「場合による」は5社で「スペースが足りなければ直さない」などの意見があった。言い換え候補には「『両親や兄弟』を『家族』と直す」という回答も複数見られた。
「平仮名に直すが、『兄弟』と書かれてくることが最近なくなってきている」というコメントも。
不特定多数でなく特定の人について、姉がいることがわかっているが、本文中に姉について言及がなく、「兄弟」でも違和感を与えないケース
直す 13社 |
場合による 4社 |
直さない 0社 |
「きょうだい」か「兄弟姉妹」に「直す」が13社。「直さない」はゼロだった。一つ前の質問よりも直すという回答が増え、読み手にわかるかどうかは関係なく、特定されている場合はそれに基づいた字を使いたいと考えている傾向が浮かんだ。
テレビからは「姉妹が『集まってきょうだい会をした』と言った場面でテロップを『兄弟会』としたことがあるが、視聴者には違和感を持たれたようだ」との報告もあった。
「再選した」
「再選された」という他動詞的用法が本来的か
直す 6社 |
場合による 4社 |
直さない 7社 |
回答は割れた。直し方は「再選された」「再選を果たした」などが例に挙がったが、「直す」とした社でも「再選した、も散見される」「直したいがあまりに多く、時間、手間の問題で全て直すのは困難な状況」という声があった。
「直さない」とする社は「辞書によっては『再度の当選』の意味を掲載している」「最近は9割が自動詞として使われている」などとして許容するとした。
また「テレビでは『○○候補が再選です』という他動詞も自動詞もない言い方が増えているが、避けた方がいいのでは」という意見もあった。
前職が出直さない「出直し選」
前職が「出直さない」場合「出直し」でよいか
直す 12社 |
場合による 2社 |
直さない 3社 |
「直す」が多数。直し方は「前市長の辞職にともなう市長選」などとするか、単に「市長選」とするというものがほとんどだった。理由は「前職が出馬しないのであれば違和感がある」という意見の通りだが、この「出直し」については「市政の出直し」であり、「前職が出直す」かは関係ないとの見方もある。
各社の用語担当者がどのような認識で「出直し」をとらえているかを知るのが狙いで設けた問いだったが、「前職の出直し」との認識が多数であることが判明した。
ちなみにデジタル大辞泉は「出直し選挙」を「地方公共団体の首長を辞職した人が、再選を目指して立候補して行われる選挙」としている。