キャンプなどで「飯盒(はんごう)」を使ってご飯を炊くのは「飯盒炊爨(すいさん)」。新聞では「飯ごう炊さん」という表記になりますが、「爨」には「かまど」などの意味があります。しかし今では「飯ごう炊飯」だと思っている人も多いようです。
直すにあたって出稿側からも「『飯ごう炊飯』だと思っていた」という声が複数上がりました。実際、一部に「近年、飯盒炊飯ともいう」(大辞泉)などと「炊飯」も示す辞書があり、指摘するか迷いました。
それでも、多くの辞書で「飯盒」の用例として「飯盒炊爨」のみを挙げていることや、これまで本紙記事のほとんどが「炊さん」と書いてきたことから、「飯ごう炊さん」が一般的な表記と考え、出稿部の了承を得て直しました。日常的な料理とは異なる、野外で火をおこしてご飯を炊く行為には、やはり「爨」の字の方が合っているように思います。
2007年に西部本社版に載ったコラムでも、当時の校閲記者が「地域面で『飯ごう炊飯』に出くわした同僚が『炊飯』を『炊さん』に直す赤字を出したところ、編集者が戸惑いの表情で聞きにきた。(中略)書いた記者も編集者もベテランだったという事実に驚いている」と書いてます。10年以上前から、「飯ごう炊さん」になじみのない記者や編集者(それもベテランの)がいたことがうかがえます。
考えてみれば、「炊さん」ということば自体「飯ごう炊さん」以外ではなかなか目にしません。ガスや電気式の炊飯器が開発され、かまどからお米が遠ざかって久しい現代。キャンプ場の一角ですすをかぶりながら細々と生きてきた「炊さん」ですが、より一般的で字も平易な「炊飯」にシェアを奪い尽くされ、死語になる日が来るのでしょうか。
【神尾春香】