「食べ歩き」の従来とは異なる用法について伺いました。
目次
「歩きながら~」=「食べ歩き」は4分の1
「歩きながらものを食べること」を「食べ歩き」と言いますか? |
「食べ歩き」と言う 26.1% |
「歩き食い」など別の言葉を使う 41.6% |
ぴったりする言葉はない 32.3% |
「食べ歩き」という表現を「歩きながらものを食べること」にも使うのは4分の1で少数派でした。「ぴったりする言葉はない」という人が3分の1。新聞の見出しのように字数制限の厳しい場面では言葉の選択に窮することもありそうです。
「歩きながら~」は「歩き○○」が有力
旧来の「食べ歩き」は「土地の名物料理やめずらしい食べ物などをあちこち食べてまわること」(日本国語大辞典2版)。そんなに珍しい物を求めるのでなくても、あちこち店を巡って食べて回ることは一般に「食べ歩き」と言うようです。
一方で「歩きたばこ」「歩きスマホ」のように、「歩きながら何かをする」という意味の言葉は近年になって出てきたもののようですが、「歩き○○」という形を取ります。立ったまま話すことが「立ち話」、立ったまま食べることが「立ち食い」であることを考えると分かりやすいでしょうか。
この伝でいくと、歩きながら物を食べることは、やはり「歩き食べ」ないし「歩き食い」という形を取るのがよさそうです。新聞の見出しで「食べ歩き」という形を取ってしまったのはうまくなかったと思います。
「歩き食べ」よりは「歩き食い」か
ただ、選択肢に挙げたような「歩き食い」という形を行政から市民に向けて言うのはちょっと難しいようにも思います。出題者が子どものころには「歩き食い」は行儀が悪いからするな、と言われたものでしたが、それは大人が子どもに言って聞かせる言い方だったかもしれません。
であれば「歩き食べ」? しかし「食べ」で終わる単語というのは、ジャパンナレッジのデジタル大辞泉には「三角食べ」「ばっかり食べ」などが出ていますが、今ひとつこなれていない言葉ばかりで数も多くありません。「○○食い」には「共食い」「先食い」「買い食い」のような見慣れた言葉も多く、どちらかといえば「歩き食い」を推せそうです。
新聞他社ではウェブ記事の見出しに「食べながら歩き」としているところもありました。別の意味で使われてきた「食べ歩き」を使うよりも工夫されていると感じますが、見出しのためにやや無理をした感じはあります。「ぴったりする言葉はない」というのが実情かもしれません。
無理せず言い換えが無難かも
今回の質問のきっかけになった「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」では、マナー違反となる迷惑行為の一つとして「狭あいな場所又は混雑した場所で、歩行しながら飲食を行う等他者の衣類を汚損するおそれのある行為をすること」を挙げています。
これを見ると、無理に「食べ歩き」を使わなくても「混雑時の路上飲食」などと言い換えることができそうです。似たような条例に東京都千代田区の生活環境条例がありますが、全国で初めて過料を設けたことで注目された「歩きたばこ」については「路上喫煙」とも言われます。
しかし、路上にベンチなどが置いてある場合にはそこで食べてもダメなのか、などと問題になるのでしょうか。うーん。それでも「歩きながらものを食べる」こととして「食べ歩き」を使うことはお勧めできません。別の表現への言い換えを検討すべき言葉だと考えます。
(2019年05月03日)
鎌倉市で、山道を走り抜けるトレイルランニングや路上での撮影などの行為を「迷惑行為」と位置づけ、「それらを行わないように努める」ことを市民と滞在者等に求める条例が施行されました。
迷惑行為で特に話題になったのは「食べ歩き」。あっちの店からこっちの店へと食べ歩くことが問題視された――わけではなく、条例には「歩行しながら飲食を行う等他者の衣類を汚損する恐れのある行為」といいます。要するに「歩きながらものを食べること」です。
条例そのものには「食べ歩き」という文言は出てこないのですが、素案を公表した段階での説明文書に、町中では「食べ歩き」などさまざまな場面でマナーの呼びかけが必要だ、と記されていました。そのためか、報じたメディアも「食べ歩き」を使ったところが多かったようです。
でも「食べ歩き」といったら通常は「その土地の名物料理や珍しい食べ物を、あちこち食べて回ること」(大辞泉2版)。条例を取り上げたNHKのニュース番組では“食べ歩き”と引用符付きにして、従来の「食べ歩き」とは違うと示していたようです。毎日新聞では条例が成立したときに、見出しでばっちり「食べ歩き 自粛を」とやりましたが、これも今では通用するのでしょうか。
(2019年04月15日)