成長した動物をどう表現するか伺いました。
目次
平仮名書きが最多で4割強
成長した動物を「大人」と書いてもよいでしょうか? |
問題ない 23.3% |
平仮名で「おとな」ならよい 41.8% |
「成獣」などとするのがよい 34.8% |
「大人」表記で問題ないとするのは2割強と少数派で、「おとな」表記が4割強と最も支持を集めました。「成獣」などがよいという人は3分の1。生物学に関する文章などで「成獣」「成魚」などがふさわしい場面はあるでしょうが、表記はともかく動物を「オトナ」と呼ぶことは許容する方が多そうです。
人と動物に同じ言葉を使えるか
このように、基本的に人に使う言葉を動物に用いてよく問題になるのが、当ブログで以前にも取り上げた「死亡」「亡くなる」です。毎日新聞用語集では動物について「死亡」を使わないと定めていますが、単に「死ぬ」と書くと、読者から冷たい新聞と思われるのではないかと不安にもなります。
これに関してはNHK放送文化研究所の「放送研究と調査」2016年6月号「“パンダが亡くなりました”はおかしいですか?」に、興味深い調査が載っています。「飼い猫/パンダ/イリオモテヤマネコ/公園にいた猫」それぞれの場合に「亡くなりました/死亡しました/死にました」と放送で表現することをおかしいと感じるか質問したものです(詳しくはこちら、PDF)。
公園にいた猫よりも飼い猫について「亡くなりました」がおかしいと感じる人が少ない▽パンダに「死にました」を使うのはおかしいと感じる人が多い――といった結果が出て、「人間に身近な存在である場合は、『亡くなる』など人に使われるような表現を使ってもおかしくないと感じられている」「『死ぬ』は生々しく、語感が強い。そのため、人間に限らず親しみのある動物に使うとおかしいと感じられる」と推論し、どの表現を選ぶかは動物の身近さが判断基準になると述べています。
人間との「近さ」が言葉に表れる
「オトナ」の話に戻りましょう。こちらも人に使う言葉だとする辞書がほとんどですが、今回のアンケートで触れたパンダなど動物園の生き物や、ペット、家畜といった人間に近い存在であれば、情を込めて「もうオトナだね」などと言って自然な気もします。ツイッターでは、愛玩動物について「成獣なんて表記したら怖くて台無し」というコメントもありました。
しかし「大人」で問題ないという方が少数派だったのは、「人」という字を使うほど同一の扱いはできないと感じる方が多いということでしょう。上の「死亡」表現の調査から導かれた結論を踏まえると、アンケートでは身近さの度合いを判断した上で、「大人」(ほぼ人間扱いの表現)と「成獣」(やや突き放して見た表現)の間にある「おとな」が適当だと考えた人が多数派だったということになります。
ケースごとに使い分けるのがよさそう
ならばパンダなどの記事の場合、「おとな」と書くのは違和感を避ける一つの手でしょう。特に人々の思い入れが強くほぼ擬人化されているような動物なら「大人」でよいかもしれません。逆に身近でなかったり姿形が人間と大きく隔たっていたりするとどうでしょう。ミミズだって、オケラだって、アメンボだってオトナだコドモだと書くとさすがに首をかしげられるかも。ケースごとに動物との距離感を考えつつ表現を使い分けるのがよさそうです。
(2019年02月15日)
上野動物園のパンダ、シャンシャンに関連して「大人のパンダは竹を1日20~30キロ食べ……」という原稿を見て疑問に思いました。成人式で大人になった実感を持った方も多いでしょうが、パンダも「大人」と書いていいのでしょうか。
辞書を見ると「十分に成長した人。一人前になった人」(広辞苑7版)などと人について使うとするものがほとんどです。とはいっても日常会話では「シャンシャンがおとなになったら」とか「おとなの猫より子猫を飼いたいよね」といった具合に成長した動物について使うことは多く、「成獣」「成猫」などと言うことはまれ。三省堂国語辞典では7版で「動物にも言う。『-のライオン』」という記述が追加されました。
かくして三国のお墨付きはもらえたとして冒頭の原稿はOKとしたのですが、出題者のような疑問を抱く方は他にもいるのかと思い質問しました。三国の記述も「『大人』って、人間以外には使えないの?」という疑問を持つ人がいたからこそ加えられたはず。字面を見て「人」という漢字が使われていることが違和感のもとで、平仮名で「おとな」と書いてしまえば気にならないという人もいるかも。出題者がしゃくし定規に考えすぎているだけかもしれませんが……。
(2019年01月28日)