「学べるゲラ」とは
実際の新聞原稿を元に、校閲記者が見つけた(見逃した)間違いやありがちなミスを盛り込んだゲラ(校正刷り)を作成しました。読んで誤字脱字・事実関係の誤りなどを探してみてください。
校閲記者が読んだ後の「校閲後」のゲラと解説(有料会員限定)も掲載していますので、自分の入れた直しと見比べられます。
「校閲は先輩のゲラを見るのが一番の勉強」といわれます。ゲラからは、校閲記者がどのように読み、考え、調べ、直しを入れて疑問を出すかが読み取れます。専門の校閲・校正者以外の方が「校閲後」のゲラと解説を読むだけでも、間違えやすいポイントやミスの潰し方などの参考になります。
👉学べるゲラ第86回・校閲前(PDF)
※こちらから別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
文のつながりが不自然になっている部分は、調べなくても気づくことができます。東日本大震災からの復興をめぐる避難指示の変遷についても確認しましょう。
👉学べるゲラ第86回・校閲後(PDF)
※こちらからPDFを別タブ表示、ダウンロードすることが可能です
直しの難易度の目安
<誤字脱字・誤用など>
【★☆☆】丁寧に読めば指摘できる
【★★☆】基本的な校閲の知識で指摘できる
【★★★】言葉に関する専門的な知識や経験が必要
<文脈理解>
【★☆☆】普通に読めば指摘できる
【★★☆】注意深く読む必要がある
【★★★】原稿全体の理解や背景知識が必要
<事実確認>
【★☆☆】常識的な知識で指摘できる
【★★☆】調べれば比較的簡単に指摘できる
【★★★】綿密な調査が必要
原発事故の避難指示、現状はどうなっているでしょうか
【★★★】2段落目「今も県内3100ヘクタールの特定復興再生拠点区域で避難指示が続く」はこれでよいでしょうか?
東京電力福島第1原発事故後、福島県の広い範囲に避難指示が出されました。原発から半径20キロ圏内などが対象になり、その後、放射線量に応じて「帰還困難」「居住制限」「避難指示解除準備」の3区域に再編されるなど、たびたび見直しと変更が行われ、全容を一度につかむことは簡単ではありません。時期や範囲に気をつけながら原稿に出てくる情報を確認する必要があります。
福島県のホームページ(https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11050a/)や、ふくしま復興情報ポータルサイト(https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/m1-3.html)によると、2025年2月現在で7市町村に避難指示が出されています。
2024年12月の復興庁の資料「東日本大震災からの復興の状況と取組」(https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/202412_pamphlet_fukko-jokyo-torikumi.pdf)などによると、避難指示区域の面積は「県土の2・2%」まで縮小しているとあります。福島県の面積は1万3783平方キロ(福島県のホームページによる)のため、単純計算で300平方キロ程度の区域に避難指示が出ていることになりそうです。
ふくしま復興情報ポータルサイト(https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kyoten-kuiki.html)の地図でも「避難指示が継続している帰還困難区域」として「約309平方キロ」が載っています。
単位の換算、あっていますか
さて、原稿は「県内約3100ヘクタール」となっていますが、これはよさそうでしょうか? 「1平方キロ=100ヘクタール」なので、3100ヘクタールは31平方キロです。桁が一つずれているようです。「310平方キロ」または「3・1万ヘクタール」ではないかと問い合わせてみることにします。
さらに「特定復興再生拠点区域」にも注意が必要です。特定復興再生拠点区域は2017年5月成立の改正福島復興再生特別措置法で定められました。帰還困難区域に人が住めるようにするため、国費で除染し、宅地や社会インフラを集中させる区域のことで「復興拠点」とも呼ばれます。集中的に除染を行い、2022~23年に避難指示を解除しました。
つまり復興拠点は、帰還困難(=避難指示)区域内に位置しながら、例外的に避難指示が解除され、居住が始まった区域のことです。原稿の「特定復興再生拠点区域で避難指示が続く」は矛盾しています。この部分を削って「310平方キロで避難指示が続く」とするなどの提案をしてみます。なお「特定再生復興拠点区域」などと語順が入れ替わってしまう間違いにも注意が必要です。
文のつながりが不自然になっていませんか
【★★☆】今野義人さんは昨年、仲間とともに10年以上かけて~記録誌にまとめた→今野義人さんは、仲間とともに10年以上かけて~記録誌にまとめ、昨年完成させた など?
「昨年」は1年間しかないのに「10年以上かけてまとめた」と直接続いているのがうまくありません。「10年以上かけて取り組んだ記録誌を、昨年まとめた(完成させた)」という流れになるように提案しました。
その他の直し箇所
【★★☆】今だ除染が手つかず→いまだ除染が手つかず
副詞「いまだ」は「未だ」と書き、多くは打ち消しの語を伴って「まだ(~ない)」の意味を表しますが、常用漢字表にない読み方であるため新聞では平仮名にします。
「いまだに」も「未だに」と書かれますが、名詞「今」に助詞「だに」のついた連語として説明され「今だに」と書かれることもあります。毎日新聞ではどちらも平仮名で表記すると決めています。
【★☆☆】国の担当者の「~だろう」と説明を受けた→国の担当者に(orから)「~だろう」と説明を受けた
【★☆☆】高瀬川渓谷のる畑川地区→高瀬川渓谷のある畑川地区
【★★☆】毎週、避難先から片道2時間かけて自宅や農地が荒れないよう手入れを続けている→毎週、避難先から片道2時間かけて自宅や農地に通い、荒れないよう手入れを続けている
「片道2時間かけて」が浮いてしまい、据わりの悪い文になっています。「2時間かけて」を受ける動詞を補う提案をして解消しました。
【★★☆】心血を傾ける→心血を注ぐ、心魂を傾ける
どちらも全精神を集中させて物事を行うこと。このように同じような意味の二つの慣用句の表現が交ざってしまうことが時々あるので、気をつけましょう。実際の原稿では「力を注ぐ」とシンプルでした。
質問受け付けます
「ここに赤字が入っていないが直さなくていいのか」「解答例の直しは不要ではないか」など質問がありましたら、お問い合わせページからタイトルを「学べるゲラ第86回質問」としてお寄せください。質問が多かった箇所やなるほどと思った指摘を中心に、このページで回答いたします。全ての質問に回答できるわけではありませんのでご了承ください。