週刊誌などで目にする芸能人の「交際発覚」「熱愛発覚」。こういうことに「発覚」は使わない、という声を耳にする。「発覚」は「隠していた悪事・陰謀などが明るみに出ること」(大辞泉第2版)の意味で、悪いこと、知られたくないことがあらわになることだ。ただ最近は、悪いこと、あるいは不祥事というほどでもなく、また本人は隠すつもりでもないらしいのに、その事実が明るみに出ただけで「発覚した」ことになってしまう。
新聞でも、このところ「暴力団への不正融資が発覚」「汚染水もれが発覚」「論文改ざんへの加担が発覚」等々、この語の出てくる記事が続く。なかには、これはと思ってしまうような苦しい使い方も見受けられる。
何冊か、手元にある辞典をのぞいてみると……。「隠していた悪事・陰謀・秘密などが人に知られること」(新明解国語辞典第7版 2012年)。「隠していたことなどが、現れ出ること。ばれること」(岩波国語辞典第7版 09年)。「かくしごと・わるだくみなどがあらわれること。露見」(新選国語辞典第9版 11年)。やはり悪いこと、よからぬことについて言うのが、おおかたの解釈だ。岩波国語辞典には、悪事、わるだくみなど直接的な語は出てこないが、悪事があらわれる意の「ばれること」が掲げてあり、「不正が発覚する、裏切り発覚」の用例も挙げられているから、非難されるべきことに使うという点で、他の辞典と格別の違いがあるとは思われない。
明治期の「言海」(大槻文彦・著)でも「隠事ノアラハルルコト。露顕」、1952年の「辞海」も「かくした事があらわれること。露顕」と記し、悪事・陰謀うんぬんの語は使っていないが、「ばれる」と同意義の「露顕(露見)」の語を示してあるから、芳しい事柄には使わないということだろう。
さらに、手元にあるどの辞典も「隠していた」と書いて、「隠れていた」と記すものはない。だから、隠そうとしていない、あるいは当人も知らなかった事柄が明るみに出ることを「発覚」というのには、かなりの困難が伴う。「明鏡」(第2版、2010年)は初版になかった注意書きを加えている。「隠してもいない事柄(特に吉事)に使うのは誤り。『×妊娠〔婚約・誕生〕が発覚』」。最近の世間での使用実態に業を煮やしたのだろうか。
新聞では、ことの経緯から隠蔽(いんぺい)が疑われる場合や、当事者・関係者として当然に知り得た、あるいは把握しておくべき責任があったと思われる不祥事の類いには「隠していた」に等しいとみなして「発覚」を使う傾向があるようだ。ただしこれとても、語本来の意味を踏まえ、著しくかけ離れた使い方は慎むという態度に立っての選択であるべきだと考える。
【軽部能彦】