2012年6月29日、オリックス・バファローズファンの私は京セラドーム大阪の一塁側内野席にいた。試合が進み、打席に入ったのはオリックスの大引啓次選手(現・北海道日本ハムファイターズ)。相手チームの先発投手は調子が良く、劣勢だった記憶がある。自分が京セラドーム大阪に行くとオリックスは負けない――何の根拠もない確信を胸に逆転を信じて観戦を続けた。
場面は変わって10年4月30日。仕事中の私の目に飛び込んできたのは、オリックスの先発・金子千尋投手を示す「金子千」の表記。疑問に思い「『千』は不要では?」と運動部のデスクに聞いてみると、デスクは冷静に一言「トレードだよ」。まさに同じ日に、福岡ソフトバンクホークスの荒金久雄、金子圭輔両選手とオリックスの金沢健人投手(いずれも当時)の2対1トレードが発表されたのだという。オリックスは金子姓の選手が2人になったため、この日から金子千尋投手の表記は「金子千」に変わったのだ。当時の私は入社1カ月弱。よく調べなかったことを後悔するとともに、こんなこともあるのかと思ったものだ。
話は戻って冒頭の京セラドーム大阪。大引選手がバットを振り抜き、打球はスタンドへ一直線。周りに合わせて応援グッズをたたき鳴らしていると「バースデーアーチや!」という声が聞こえてきた。球場で初めて知ったのだが、6月29日は大引選手の誕生日なのだ。先の「金子千」の話と同じく「まさにその日」の出来事。仕事で毎日のように著名人の誕生日を調べて年齢を確認している校閲者としては、ちょっぴり得した気分になれた。しかし、ふと考えた。
「年齢」はやっかいだ。原稿を校閲する際、人物の年齢も要確認事項のひとつである。有名な人なら確認する手段もいろいろあるが、それほどでない場合は、なかなかうまくいかない。過去の記事に載った年齢から類推してみても、確証はない。最終的には出稿部門に問い合わせをするのだが、明らかに違っているのでなければ、他の作業に忙殺されたり、タイミングが悪かったりすると、どうしても「原稿を信じてしまおう」となってしまう。でも、そんな時に限って「実はまさに今日が誕生日なんです」などと言われたら、さあ大変! その1日で、年齢が間違いということになったらどうしよう……。そんなことを考えていたので、試合の経過はよく覚えていない。後で新聞を見てみたら、引き分けだったらしい。
【武田晃典】