「指揮すること」を意味する慣用句について伺いました。
采配は「振る」が3割強 「振るう」が5割強
文化庁「国語に関する世論調査」の質問を少々改変。「指揮すること」の意味ならどれを使いますか? |
采配を振る 31% |
采配を振るう 51.7% |
采配する 17.2% |
「本来の言い方」とされる「采配を振る」が3割強で、誤りとされることもある「采配を振るう」が5割強。辞書にはない「采配する」も6人に1人ほどが選びました。
「采配を振る」については、9月に結果が公表された2017年度の文化庁「国語に関する世論調査」で質問されていました。「チームや部署に指図を与え,指揮すること」を何と言うか、という問いに対して、「采配を振る」が32.2%、「采配を振るう」が56.9%という結果。意外なほどに今回のアンケートの結果と傾向が重なります。この言い回しに関しては、既に過半数が「采配を振るう」になじんでいると言えそうです。
文化庁は「采配を振る」が本来の言い方だとしていますし、明鏡国語辞典(2版)のように「『振る』を『振るう』とするのは誤り」と言い切っている辞書もあります。ただ一方で、「采配を振るう」という言い回しを記載している辞書も存在し、誤りと断定できるかには議論の余地がありそうです。
そもそも「振る」と「振るう」に意味の重なる部分が大いにあります。回答から見られる解説でも引きましたが、広辞苑の語釈では「ゆり動かす」という意味が「振る」「振るう」で重なっており、「ふるう【振るう・揮う・奮う】」の項目に「采配を―・う」という用例が挙げられています。これは1983年の3版から今年の7版に至るまで変わっておらず、「采配を振るう」という言い回しを認めることについてブレはありません。ほかにも岩波国語辞典(7新版)や集英社国語辞典(3版)が、やはり「ふるう」の項目で「采配を―」という用例を挙げており、新潮日本語漢字辞典も「揮」の項目で「采配を揮(ふる)う」という用例を提示しています。
一方、「采配を振るう」を誤りとしている明鏡では、「振るう」の語釈を「拳や武器などを大きく、また、勢いよく振り動かす」としており、振るものをあらかじめ限定しています。「采配を振る」の項目には「振るう」を誤りとする理由について「『采配』は武器ではないため」とも記されていました。采配を「勢いよく振り動かす」ことだってありそうなものですが、それは認められないようです。明鏡は慣用句などの使い方で、他の辞書よりも踏み込んで誤用を指摘することが多い印象がありますが、「采配を振る」に関しても同様と言えます。
実は新聞社・通信社の用語集では、「采配」の項目に「采配を振る・振るう」と記載して「采配を振るう」を認めるものが過半を占めています。「振る」が本来であるとしても、既に「振るう」は定着したと見なされているようです。
「采配する」は、「とりさばくこと。処置。指図」(広辞苑7版)を意味する「差配」と混同された用法のようにも見えます。名詞に「する」をつけて動詞化できるものは、多くの場合、辞書にその旨が示されているのですが、「差配する」とは言えても「采配する」を認めている辞書はほとんどありません。ただし、日本国語大辞典(2版)では「する」を付けた形を用例付きで認めており、また同辞典の旧版では壱岐地方の方言として「さいはいする」を認めています。地域によっては現在でも「采配する」になじみのある所があるかもしれません。
(2018年10月16日)
本来の言い方とされるのは「采配を振る」ですが、先ごろ結果が発表された2017年度の「国語に関する世論調査」では、「采配を振るう」を使うとした人が56.0%、「采配を振る」が32.2%と、「本来」の方が劣勢です。この質問は08年度の調査でも使われたものですが、ほぼ同じ傾向を示しています。「采配を振るう」の方が定着していると言ってよいでしょう。
そもそも「振る」と「振るう」は似た意味を示すこともあります。広辞苑7版では「ふるう【振るう・揮う・奮う】」の項目中、「振り動かす。ゆり動かす」とした語釈の中で「采配を―・う」との用例を挙げています。これが「指揮をする」という意味かは明示していませんが、「采配を振るう」という言い回し自体が否定されるものではない、ということを示しているのではないでしょうか。この用例を示している辞書は広辞苑だけではありません。
選択肢に付け足した「采配する」は経団連会長の言葉から。記者会見で新卒の就活ルールに触れた際、「経団連が採用の日程を采配すること自体が極めて違和感があるとずっと感じていた」と言ったとのこと(毎日新聞9月4日朝刊、各紙の表現もほぼ同じ)。「采配する」とはあまり言わないはずですが、意外に使う人もいるのかも?と思って加えてみました。
(2018年09月27日)