最近、取材・編集部門のパソコンに「校正支援システム」を搭載する新聞社が増えています。記者が書いた原稿をコンピューターが分析して、誤りや用語の決まりの違反があれば指摘してくれるという夢のようなシステムです。
このシステムでは、①誤っているので直す②新聞の日本語として不適切なので直す--といったルールを「辞書」と呼ばれるファイルに登録しておくと、コンピューターが辞書に基づいて指摘してくれます。
毎日新聞では、①としては、よく出てくる誤りを登録しています。「伊藤若沖」という誤表記はたまに見かけますが、原稿中に「若沖」さんが出てくると、コンピューターが「『冲』ではありませんか」と指摘してくれるわけです。「羽昨市→羽咋市」「會祖父→曽祖父」と似て非なる字が入ってしまっているもののほか▽「大阪府伊丹市」→「兵庫県伊丹市」のように都道府県と市町村の組み合わせが誤っている場合▽「和服を来ていた→和服を着ていた」のように名詞と動詞の組み合わせがおかしい場合▽「1億50000万円→1億5000万円」と1桁多い場合▽「真田幸村(47)さん→真田幸村さん(47)」のように年齢の位置がおかしい場合▽「餅をを下さい→餅を下さい」と助詞がダブっている場合――なども指摘できるようにしています。
これらは登録した誤りについては的確に指摘してくれて便利なのですが、今まで紙面に登場したことのない人名が誤っている場合などには手も足も出ません。
②としては、毎日新聞用語集に基づいたルールを辞書に登録しています。新聞では固有名詞を除き常用漢字ではないものは原則として使わないことになっており、例えば用語集には「つじ (辻)→つじ」という記述があります。校正支援システムでこの記述を辞書に登録し、「駅前で辻立ちを続けた」という文章に「『つじ立ち』に直してください」と指摘させることができます。ところが、このままだと人の姓にまで「『つじ』に直してください」と指摘してしまうという問題があります。
また、同字異音語の問題もあります。用語集によれば菓子の「もなか」は「最中」とせず仮名書きにするのが決まりですが、「最中」→「もなか」と登録すると、「格闘の最中」といった場合にも「『格闘のもなか』と直してください」と指摘してしまうのです。
「辻」も「最中」も前後にある語によって指摘させたりさせなかったりと工夫することはできますが、必要な場合は指摘をし、同時に誤指摘もゼロにするのはほぼ不可能です。
以上のように校正支援システムは人間の代わりをするには力不足で、あくまで整理・校閲部門の作業量を減らすためにあるという位置づけです。個人的には、コンピューターが自分で記事を書くことができるくらいにならないと、完璧な校正支援システムはできないだろうと思っています。分かち書きがされない、同字異音語が多いといった日本語特有の事情も考えると、信頼できる校正支援システムは現状では夢のまた夢といっていいでしょう。我々校閲記者が職を奪われるまではまだまだ時間がありそうです。
【田村剛】