まさか、閣僚の国会答弁で「ディスる」という言葉を聞くとは。高市早苗さんの発言をきっかけに、「ディスる」という言葉がどれだけ辞書に採用されているか調べました。小学生の重い指摘もお伝えします。
「テレビ朝日をディスるはずもございません」
まさか国会で、それも大臣からこの言葉を聞くとは。高市早苗・経済安全保障担当相による3月13日の予算委員会での答弁です。高市さんは放送法の政治的公平についての総務省の文書が当初「捏造(ねつぞう)」だと言っていたのが「不正確」と変わり、それはそれで興味深いのですが、ここで取り上げるのは「ディスる」という言葉についてです。
目次
国語世論調査は大半が「使わない」
「ディスる」は「けなす」「侮辱する」という意味の俗語です。英語の「ディスリスペクト」からきたとされています。この言葉は2013年度の文化庁「国語に関する世論調査」の対象になりました。
「けなす、否定するという意味で『ディスる』という言い方を聞いたことがあるか、また使うことがあるか」という質問です。結果は以下の通りで、「聞いたことがない」を含め「使わない」が8割以上となりました。
聞いたことがない 73.7%
聞いたことはあるが使うことはない 20.1%
使うことがある 5.5%
分からない 0.6%
高市さんは現在62歳ですが、2013年度の調査では50代で「使うことがある」は0.7%、60代で0.5%にとどまりました。
国会ではよく使われているのでしょうか。国会会議録で検索すると、2021年の足立康史衆院議員の「何か野党をディスっているようでありますが」という発言以外見つかりません。
最近の辞書には載せるものも
最近、急速に浸透してきたのでしょうか。ここ10年に発行された辞書の採用状況を見てみましょう。カッコ内は奥付上の発行年。×は不採用、○は採用です。
○ 三省堂国語辞典7版(2014年)
× 現代国語例解辞典5版(2016年)
× 広辞苑7版(2018年)
○ 大辞林4版(2019年)
○ 三省堂現代新国語辞典6版(2019年)
× 岩波国語辞典8版(2019年)
× 新明解国語辞典8版(2020年)
○ 明鏡国語辞典3版(2021年)
× 新選国語辞典10版(2022年)
新語採録に積極的な三省堂国語辞典がいち早く載せたのはうなずけますが、同じ三省堂から出ている新明解が採用を見送るなど、各辞書の対応は割れています。
なお「平成の新語・流行語辞典」(米川明彦、東京堂出版)によると、2007年の雑誌「PRESIDENT」に使用例があるそうです。
毎日新聞の使用状況はどうでしょう。データベースで「ディスる」を検索すると、小説家で編集者の松家仁之さんの文で「大学生から『ディスる』という言葉をはじめて聞いたのは2010年のことだった」とあるのが最初。新規の若者言葉として紹介する文脈が大半です。東京の校閲記者が執筆した特集「校閲発・春夏秋冬」でも2021年に「(軽めに)批判・侮辱したり、けなしたりする様子を表す」と意味を記しました。
「軽いひはんという考え方はあぶない」
それに対し、なんと7歳の小学生から投書が来ました。2021年7月2日掲載の「みんなの広場」から全文引用します。
本紙6月26日の「校閲発 春夏秋冬」の若者言ばについての記事を、お母さんと一緒に読んだ。わたしにとっては、知らない言ばばかりだったが、お母さんはだいたい知っていた。でも、つかったことはないらしい。記事を読んで、お母さんと話し合った。
今までになかった言ばでも、つたわりやすくなるならいいのではないかなということになった。つかうか、つかわないかは自由だけれど、いみを知っておくことは、わるいことではない。
ただ、「ディスる」という言ばについては、注意がひつようだ。「軽いひはん」という考え方は、あぶないのではないかなと思う。「いじり」のように、言ばがかるくなることで、行動がかるくなってしまうような言ばには、注意がひつようだ。
なにかをひはんするときには、せきにんをもたなければならない。若者言ばは文化の一つだと思うが、そのなかに落とし穴があるかもしれないことを忘れてはいけないなと思った。
確かに「いじり」と同じように、当人は軽い気持ちで「ディスる」を使っても、当事者は深刻に受け取り死ぬほど悩むこともあるかもしれません。「ディスる」の言葉の軽さは、SNSで気軽に中傷する風潮と共通するものを感じます。
「なにかをひはんするときには、せきにんをもたなければならない」。この小学生の言葉を大人は重く受け止めなければなりません。
【岩佐義樹】