料理番組が好きだ。必要な材料をあらかじめ用意し、順番に加え、見る間に料理が出来上がっていく。プロの手で手際よくおいしそうな料理が完成していくのを眺めるのは楽しい。残念ながら実際に作ってみることはそう多くないのだが。
仕事でも、料理レシピの校閲をすることがある。おもに「材料」と「作り方」から成るコーナーだ。普段多く目にする事件、あるいは政治・外交問題といった記事よりも短いし、難しい用語や漢字が使われることもまずない。でも、案外チェックすることは多いため気が抜けない。
たとえば、「片栗粉」は「栗」が常用漢字ではないので「かたくり粉」に書き換える、野菜などを「固めにゆでる」となっていれば「硬め」に直す、「油が乗った魚」は「脂が乗った魚」に、などなど。かつて「麺棒の先などでたたく」というところが「綿棒の先」となっていたこともあり(!)、誤字にも注意が必要だ。食材名なども可能な限り調べてみる。
先日、本紙のものではないが、あるレシピを校閲していた時のこと。材料に「チリペッパー小さじ1/2、カイエンヌペッパー(または一味唐辛子)少々」と書かれていた。調べたところ「チリペッパー」とは乾燥した赤唐辛子のみを粉末状にしたものという。これでは一味唐辛子と同じでは? そう思いさらに調べると、やはり「カイエンヌペッパー」はチリペッパー(唐辛子)の別名の一つらしい。唐辛子は原産地の中南米から世界中に広まった際、各地で形や辛さの異なるものなど数多くの品種が開発された。そうして広まるうちに地名や形を表す名前が付けられたため今ではいろいろな名前で呼ばれるのだという。「カイエンヌ」は南米にあるフランス領ギアナの都市カイエンヌに由来するものとみられる。料理人や料理の先生は唐辛子のことを「カイエン」と呼ぶことが多いそうだ。
似た名前の「チリパウダー」には唐辛子だけでなくクミンやオレガノといったいろいろなスパイスが含まれているそうで、これではないかと指摘する。後日返ってきた原稿では「チリペッパー」は「チリパウダー」に直っていた。前述の通りとても料理好きとは言えないが、ともかく無事レシピを正確なものにできほっとした。
新聞記事も料理のレシピも、注意深く原稿を読んで状況を想像し、おかしいところがないかよく調べるといった基本は同じだ。もちろん、実際の体験が多ければより校閲はしやすいというところも。たまたま記事に出てくる現場がよく知った場所であれば、状況の想像はよりしやすくなる。さて、実体験を増やすためにも、料理のレシピも読むだけでなくもっと作ってみた方がいいのかもしれない。
【松風美香】