突然ですが、みなさんは「校閲記者」にどんなイメージを持っていますか? 「誤字脱字を直す」「間違い探しのような仕事」「辞書などを片手にひたすら記事を読んでいる」――このように考えた方が多いのではないでしょうか。もちろんこれらの答えも正しいのですが、もう一つ校閲の仕事を語る上で切っても切れないものに「コンピューター」があります。すでにご存じの方もいらっしゃると思いますが、校閲の仕事は、文章や言葉の誤りを正す「校正」に加え、記事の内容が正しいかをチェックする「閲」の作業も非常に重要です。インターネットでの検索や過去記事のデータベースなどを駆使して原稿の隅々までチェックするので、文字を読んでいる時間よりもコンピューターの画面を見ている時間の方が長く、「もう目が限界!」なんてこともしばしばあります。
コンピューターが仕事をする上でそんなにも重要だと入社後に初めて知ったアナログ派の私は勉強の毎日ですが、先の衆院選ではそんな私に(なぜか?)データ処理担当という重大な任務が回ってきました。国政選挙においても校閲にとってコンピューターが不可欠であるのは変わらず、データ処理班が表計算ソフト「エクセル」を使って事前に計算式を作っておくことで、人間が手で数えるには煩雑な分析に役立てています。(このことはコラム「2014衆院選で校閲はどう動いたか」を参照していただけるとわかりやすいと思います)
では、実際に衆院選でどのようにコンピューターと格闘したか、いくつかの事例をご紹介します。
【Case1】数が合わない!
公示時の1面に載る「党派別立候補者数」の表(2014年12月2日夕刊)の校閲はデータ処理班が担当します。あらかじめエクセルに立候補が予想される人たちの名鑑データや、求めたい式(立候補した人の合計は何人か、自民党の女性の立候補者は何人かなど)を準備しておき、公示当日は実際に届け出た候補にひたすら印をつけていくことで、立候補した人のさまざまな分析ができるようにしておきます。ところがこの表をめぐってあるトラブルが。出稿された表には13時5分現在の集計で、立候補者数の合計が1188人となっていたのですが、ソフトがはじき出した答えは1189人と1人ずれていたのです。よくよく調べてみると、時間に追われる中、立候補していないのに誤って印を入力してしまった人が1人おり、それゆえソフトが1人多くカウントしてしまっていた(出稿が正しかった)と判明しました。さすがのコンピューターも人間の操作ミスまでは指摘してくれません。猛省です。
【Case2】コンピューターも間違える?
上述のコラムでも触れられている「新人議員のその後は」の図(12月3日朝刊)を校閲していた時のことです。「2009年衆院選で初当選した民主党議員は143人で、そのうち14年衆院選では民主から46人、民主以外から18人が立候補」という内容が正しいかどうかを調べるため、143人が今回どの政党からそれぞれ立候補しているのか(あるいはしていないか)を表示する式を作りました。ところが、ソフトの分析結果は「民主から立候補したのは45人」とまたも1人のずれが。また何かケアレスミスをしてしまったかなと調べていると、立候補したはずの櫛渕万里氏(民主)が「立候補せず」となっていることに気づきました。同氏の立候補状況をコンピューターが参照する時に、名鑑データに入力された「櫛」の字が異体字(木に節)になっていたため、「櫛」渕氏と「木に節」の同氏を「別人」だと認識し、はじいてしまったのです。逆に金子恵美(めぐみ)氏(自民)と金子恵美(えみ)氏(民主)を「同一人物」としてカウントしてしまい数字がずれたケースもありました。時には人間がコンピューターを助けてあげねばならないこともあるようです。
【Case3】二人三脚
投開票時も公示時と同様に事前準備をした上で、当日は次々に入ってくる速報をもとに当選者に印をつけていき、各選挙区や当選者の分析に役立てます。そんな中データ処理班が貢献できたのは、投開票翌日(12月15日)夕刊に出稿された「野党一本化194選挙区の結果は」の図です。当初この図は「与党151勝、野党43勝」となっていました。ところがエクセルが示した結果は「与党151勝、野党42勝」。足し算から考えても43勝の方が正しそうですが、ここで共産党が18年ぶりに小選挙区で議席を獲得したことを思い出しました。野党一本化(野党共闘)とは「(ほぼ全ての選挙区に独自候補を擁立する)共産党や、無所属・諸派を除いて野党候補が1人しかいない選挙区」と定義しているので、共産勝利は野党勝利にカウントされません。そのため「与党151勝、野党42勝、共産1勝」と直してもらいました。データ処理の正しさを人間の知識が補足するという、言うなればコンピューターとの「二人三脚」で誤りを正せた事例でした。
師走に突然やってきた今回の衆院選。準備に十分な時間がない中でいきなり苦手なコンピューターと格闘することになり、最初は苦労や不具合の連続でした。しかし少しずつ慣れるにしたがって、楽しさややりがいを感じられるようになっていきました。次回の選挙ではしっかりと貢献できるように、日々コンピューターと向き合って仕事をしていきたいと思います。
【佐原慶】