「延長上」と「延長線上」でどちらを使うか伺いました。
目次
「延長線上」が9割弱占める
彼の作品は過去の活動の「延長上/延長線上」にある――どちらを使いますか? |
延長上 5.4% |
延長線上 88.6% |
上のどちらでもよい 6% |
ある物事が、それ以前の何かに連なるものであることを示す言い回しとして「延長上」と「延長線上」でどちらを使うかは、「延長線上」が圧倒的で9割近くを占めました。実は新聞記事では「延長上」がある程度の割合で現れるのですが、皆さんの感覚に沿うのは「延長線上」だと言えそうです。
辞書が取るのも「延長線上」
国語辞典を引くと、「延長線上」で見出し語を立てているものや、「延長」の子項目として立項しているものがいくつかあります。こんな感じです。
えんちょう-せんじょう【延長線上】①線分の一端をさらに引き延ばした直線の上。②ある物事との関連が深く、その続きと考えられる物事。(明鏡国語辞典3版)
今回の質問文のような使い方は上の②に当たり、線分のイメージから生まれた比喩的な用法と言えます。
今回当たった12点の国語辞典のうち、
[bgcolor color=””]・「延長線上」で項目を立てているものが2点
・「延長」の項目に「延長線上」という子項目を設けているものが2点
・「延長線」の項目の中で「延長線上」の使い方に触れているものが2点
・「延長」の用例で「延長線上」という言い方を挙げているものが2点[/bgcolor]
――でした。
一方の「延長上」が出ていた国語辞典は1点のみ。新明解国語辞典8版が「延長」の項目で「外交も国民の常識の延長(線)上でやるべきものだ」という用例を挙げています。しかしこれ以外は、「延長線上」を立項していないものでも「『延長線の上にある』『延長線上にある』などの形で……」(日本国語大辞典2版)、「多く『延長線上』の形で……」(広辞苑7版)など、通常は「延長線上」が使われると主張しています。
実際には「延長上」も使用例多数
アンケートの結果から見ても「延長線上」を使うという人が圧倒的でしたし、これは「延長線上」で決まり、「延長上」とは言わない――と言ってしまおうかと思いましたが、実際には無視できないほどの量で「延長上」という言い方も使われています。
現代日本語のデータベースである、国立国語研究所の現代日本語書き言葉均衡コーパス「梵天」で検索すると、「延長線上」は238件ヒットしますが、「延長上」でも85件が見つかります。用法に大差はなく、この二つをあまり区別せずに使う人が一定数いることがうかがえます。
毎日新聞の記事データベースでも、1987年からの記事(東京本社版、地域面除く)を検索すると「延長線上」を含む記事が2236件、「延長上」が442件見つかります。国語辞典で項目として取り上げられるのは「延長線」からのイメージをもとにした「延長線上」であるとしても、実際の言語使用においてはなんとなく「延長上」も現れる、というところでしょうか。新明解国語辞典の「延長(線)上」という書き方は、「延長上」の方が主で「延長線上」が従に見えてしまうきらいはありますが、こうした実態を反映したもののようです。
「延長線上」がおすすめ
とはいえ、辞書の記述から見ても、アンケートの結果から見ても、一般的には「延長線上」を使う方が良さそうだ、という印象は強く受けます。校閲記者は、出稿部に対して修正を依頼するときに、正しい/正しくないという形で断定はできない言葉でも、大勢が支持する用法については「普通はこう書きます」と言って押し通すことがあります(出題者だけだったら申し訳ないのですが……)。もちろん、何が「普通」かを固定的に考えるのは危険なことですが、「延長線上」についてもこのように便宜的な意味で「普通」はこちらが使われる、と言うことはできると考えます。
(2021年11月02日)
延長線とは、線分の片側をさらに先へ延ばしたものですが、比喩的にも使います。「『延長線の上にある』『延長線上にある』などの形で、現象は異なるがそれらの物事と一続きにして考えられる意を表わす」(日本国語大辞典2版)。質問文に即していえば、「彼の作品」と「過去の活動」は一見違うようにみえるとしても、実は一続きのものなのだ、ということです。▲しかしこの「延長線上」を「~延長上にある」のように書いたものを見かけることも少なくありません。「延長」自体、「物事の長さや状態などをさらにのばすこと。また、のびること」(同)という意味なので、「過去の活動の延長」だと考えれば問題もなさそうですが、こうなると「上」が余計な感じもします。▲出題者としてはやはり、図としてイメージの湧きやすい「延長線上」を推したいと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。
(2021年10月14日)