「群を抜く」という言い回しの使い方について伺いました
目次
8割超はポジティブな方向で使用
このチームは本塁打が「群を抜いて」少ない/多い――どちらに使いますか? |
両方に使う 12.7% |
「少ない」に使う 4.9% |
「多い」に使う 82.4% |
他との差が大きいことを示す「群を抜く」についてどう使うかを聞いた結果は、例えば本塁打の数については「多い」に使う、つまりポジティブな方向にのみ使うという人が8割を超えました。他との差が大きいとしても、ネガティブな方向に「群を抜く」を使う人は少ないようです。
「群を抜く」の言い換え語は?
数値が高いほうが望ましいとされる内容の記事で、「数値は群を抜いて低かった」――。群れから遅れぽつんと離れた子ヒツジを思い浮かべ、一瞬「ありでは?」との思いがよぎりましたが、いやいや、つまりはバツグン(抜群)のことなのだから前方に抜け出ていないと……と赤ペンを手に取りました。
ただ「群を抜いて」を取って「数値は低かった」にするだけだと「とても低いのだ」というニュアンスが失われてしまうので、なんとか言い換えを考えたいところ。飛び抜けて? とびきり? ずばぬけて? いくつか思い浮かべてみましたが、いずれも「すぐれた」という意味に使われる言葉で、置き換えることができません。結局よい案が見つからず、「群を抜いて」を取るだけで終わってしまいました。
余分なものをのける「抜」
アンケートの結果を見てみると、「多い」が8割と、ポジティブな意味で使う人がほとんど。しかし「両方に使う」「『少ない』に使う」人も合わせて2割ほどおり、やはり群れからぽつんと離れた子ヒツジを思い浮かべる(?)人は一定程度いるようです。
「群を抜いて」や「抜きんでる」に使われる「抜」は、「多くのものの中からそのものだけを引きぬく。そのものだけぬけ出る」(漢字源)との意味を持ちます。なりたちをみると、右側の友にあたる「犮」は「犬」+「ノ」(斜線)からなり、犬が後脚を斜めにはねたさまのことと言います。「手へん+犮」で、余分なものを払いのけて、そのものだけをぬきおこすことを示しているそうです。
あまたあるものの中から目的のものを選び取る……というところから、他を「抜く」ということは「力などが他よりすぐれている。基準よりも上である」(大辞泉2版)といった意味合いを持つようになると推測できます。
小さい数値がなじむ場合も
「この選手は失策が群を抜いて『少ない』」など、内容によっては数値が小さい方向にも使えるだけに、字面だけでは判断できないのもおもしろいところです。単に数値の大小を基準にするのではなく、大小どちらが「ポジティブ」な意味なのかをきちんと捉えた上で、「群を抜く」の使用がかなっているか判断する必要がありそうです。
(2022年04月15日)
元々目にした文は「数値は群を抜いて低かった」というものでした。ことわざ辞典で「群を抜いて」をひくと「他の多くのものより数段すぐれること」とあり、ポジティブな方向で、質問文であれば「多い」に使うとわかります。▲現代日本語の書き言葉を集約しているサイト「少納言」では、編集者の目を通っている素材が多いからかほとんどがポジティブな用法でしたが、政府の白書や企業のリポートでネガティブな用法も見つかりました。▲「群れから離れたもの」のイメージだけならば、「多い」でも「少ない」でも違和感はありません。実はネガティブなほうも、市民権を得ている使い方だったりするのでは……? 好奇心から聞いてみたくなったのでした。みなさんはどのように使っているでしょうか。
(2022年03月28日)