「牛耳る」という言葉の使い方について伺いました。
敵方に「牛耳られる」は4分の3が違和感あり
相手投手に味方打線が「牛耳られる」。違和感ありますか? |
違和感がある 74.1% |
違和感はない 25.9% |
違和感ありとした人が4分の3を占めました。味方が敵方に手玉に取られる、というケースで「牛耳られる」を使うのは、一般的に受け入れられないという結果でしょう。
しかし、野球での「牛耳る」の用法は独特なところがあるのかもしれません。プロ野球の広島などで投手として活躍した黒田博樹さんも「若い頃は相手を牛耳る投球を目指していた」と言っています。ニュアンスとしては、相手に何もさせずに自分の支配下に置く、という感じなのでしょうか。かわすのではなく、力でねじ伏せるという含意もありそうです。「剛腕」という言葉が「特に野球で、速球を得意とする投手などにいう」と同時に「自分の考えを強引に押し通す力」(大辞泉2版)をも意味するように、剛球投手には権力との類推が働くようです。
とはいえ「牛耳る」および元の形の「牛耳を執る」は、やはり「一つの党派・団体の中心になって、支配する」(岩波国語辞典7新版)というのが主流の用法です。
最近、スポーツ団体や私立大学で「ドン」「ワンマン」などと呼ばれた人たちがひとしきり話題になりましたが、まるで「牛耳る」という言葉の見本のような事例だなあ、とニュースに触れるごとに感じていました。話題になった人たちが権勢を振るったのも、基本的には団体内部でのこと。その外側でも権力が通用するわけではないのです。
アンケートの結果からは、こちらが「正解」と考えている用法と、多くの人の感じ方が一致していると分かりました。野球の事例は業界用語に近いもののようにも感じますが、注意して使用を避けるようにすべきだと考えます。
ところで、大修館「大漢和辞典」の「牛耳を執る」(辞典の表記は「執牛耳」)の項目には「今、会盟を司(つかさど)るものをいふ」とする一方で、「一説に、牛耳を執るは卑者の職であるから、主盟者の称とするは誤であるといふ」という記述があります。
現在の用法としては「牛耳を執る」ないし「牛耳る」のは権力者側で問題ありませんが、語源をたどって「これが本来の使い方」とする作業には難しさも感じます。
(2018年08月21日)
スポーツ紙のサイトで見かけた大リーグの記事に「大谷翔平、相手左腕に牛耳られる」のような見出し。違和感を持った一方で、こういう使い方を気にしない社もあるのかと思い、ご意見を伺ってみることにしました。
「牛耳る」の元の形は「牛耳を執る」。古代中国で「諸侯が同盟を結ぶ儀式で、盟主となる者が牛の耳を割いて血を採り、これを順番にすすって同盟を誓った」という故事に由来し、「同盟・団体などの盟主・支配者となる。また、団体・組織を自分の意のままに動かす」ことを意味します(大辞林3版)。
つまり組織の内側で主導権をとるのが「牛耳る」。敵対する相手を手玉に取る、という意味で用いるのは元々の使い方からは外れます。
とはいえ、冒頭に挙げたような使い方を見かけるのも事実です。皆さんはどう感じるでしょうか。
(2018年08月02日)