まずは「担々麺」。ひところより減った気もしますが、料理店の看板やメニューなどでは「坦々麺」という間違いがまだまだ目立ちます。
「改訂調理用語辞典」にはこうあります。「四川風屋台そば。担(タン)は担ぐという意味で、用具を担いで街頭で売り歩くのでこの名がある」。そういういわれがあるのですから「担」が正しい字です。
「坦々麺」という誤字が発生する理由として考えられるのは、パソコンなどで「たんたんめん」が一発変換しない――慎重を期していえば一発変換しないものが多いことです。「たんたん」と「めん」が別としてコンピューターが認識してしまうと、「坦々」(平らなこと)という元からある日本語の方が選ばれてしまうのです。
そして恐らく、その間違いの集積は、パソコンなどで出したい語を予測する「サジェスト機能」に反映されるという悪循環となって、間違いを再生産してしまうと思われます。試みに「グーグル」などの検索で「たんたんめ」と入力してみてください。サジェスト機能で現れる候補に「坦々麺」という誤字が上の方に表示されてしまうはずです。
次に、最近「オバマ政権」が「オバマ製麺」に化けていた一件。すぐに直せたので「オバマさん、うどんでも作り始めた?」と笑いごとで済んだのですが、なぜこんな誤字が発生するのでしょう。パソコンのキーボードの配列をみて納得。KとMはすぐ近くにあります。ローマ字入力の「seiken」を「seimen」と誤ってしまったのでしょう。コンピューター時代ならではの誤植といえます。
しかし、「麺」のミスは人ごとではありません。以前、東京都の「麴★町署」の「麴★」が「麵◆町署」と麺の旧字体となって一部地区で紙面化してしまうという失態がありました。なぜこんなことが起きたのか。原稿では「麹■町署」とあったのですが、毎日新聞では「こうじ」は略字体の「麹■」ではなく、印刷標準字体とされる「麴★」を使うことにしています。その直しを出したつもりが、誤って「麵◆」の字を入れられ、チェックでも見逃してしまったのです。印刷に回る間際の切羽詰まった時間でしたが、読者には何の言い訳にもならない見逃しでした。〈編注:★、◆、■を付した文字の字体はご覧になる環境によっては正確に表示されていない場合があります。正しくは画像の左(★)、右(◆)、中(■)です〉
さて、担々麺に話を戻すと、「坦々麺」の看板を掲げてある中華料理屋でタンタンメンを注文すると、伝票に手書きで「担々麺」と書いてありました。従業員は分かっているのだなと、少し安心しながら担々麺をおいしくいただきました。
【岩佐義樹】