バーベルを「あげる」をどう書くかについてうかがいました。
目次
「挙げる」が半数占め最多
100キロのバーベルを「あげる」――どう書きますか? |
上げる 37% |
挙げる 50.1% |
揚げる 5.9% |
仮名書きがよい 7% |
「挙げる」を選んだ人が半数、「上げる」が4割程度という結果になりました。どちらを使っても構わないものの、一般的な表記である「上げる」派よりも「挙げる」派の方がやや優勢のようです。
「わざわざ持ち上げる」意味の「挙」
まず「上」と「挙」の漢字の成り立ちから考えてみます。「上」は物が下敷きの上に載った様子から生まれた字で、「挙」は両手を使って持ち上げるという意味を持ちます。下から上への移動全体を表すことができる「上」であれば、片手でひょいと持ち上げる場合なども含めて万能に「持ち上げる」ことを表現できますが、「挙」を用いることで「わざわざ持ち上げる」(円満字二郎さん著「漢字の使い分けときあかし辞典」)というニュアンスを付け足せます。「両手で持ち上げはっきり示す」「目立つように取り上げる」などの文意で「挙」が多く使われるのはこのためです。
重量挙げにおいては、単にバーベルを上へと移動させるだけでなく、両手で持ち上げて頭上で静止させるというその動作から、重量「挙」げの表記が好まれるのでしょう。
「上」と「挙」の使い分けも
一方、出題時に触れた三宅宏実選手の原稿の中に、こんなくだりがありました。
バーベルを首下から頭上へと一気に突き上げるジャークの技術で、三宅は世界トップクラスを誇る。他の選手がバーベルを「あげている」のに対し、高さが首下から変わっていないと錯覚するほど、バーの下に「潜り込む」ようにして「あげる」
もちろんこのケースでも、「上」「挙」どちらを使っても意味は通じます。ただ、他の選手がただ単に上へと「あげている」のに対し、三宅選手は潜り込むようにして一気に持ち上げるという対比を強調したかったため、ここでは前者を「上げている」、後者を「挙げる」として書き分けることにしました。
うきあがる「揚げる」
では「揚げる」はどうでしょうか。こちらも「高く上げる」という意味を持つことを考えると、「バーベルを揚げる」としてもよさそうに思えます。しかし、前出の「漢字の使い分けときあかし辞典」によると、「揚」は「ふわふわと高い方へ移動する」「下からの支えなしに高い方へ移動する」さまを表します。
なるほど、「たこ揚げ」「水揚げ」などのように「浮揚」と関わりがある場合に「揚」が用いられますね。そのため重量のあるバーベルを持ち上げる様子を表す際は「上」か「挙」に任せた方がよいでしょう。
慣用の表記がある場合も
とりあえず「上」を使っておけば何とかなるからか、国語辞典を見てみると、「あげる【上げる・挙げる・揚げる】」といった具合に一つの項目にまとめられ、それぞれの使い分けが明確に示されていないことが多くあります。
ただし、「結婚式を挙げる←挙式」「国旗を揚げる←掲揚」など、よく使われる対応する語がある場合は、その語に含まれる漢字が慣用として用いられます。そう考えると、よく使われる「重量挙げ」という語から「バーベルを挙げる」という表記が導かれるのも自然と言えるのかもしれません。ちなみに複合動詞の「あげる」は、「上げる」か仮名書きが基本です。「バーベルを持ち挙げる」とはならないのはそのためです。
(2021年09月10日)
先日幕を閉じた東京オリンピック。夏季五輪の日本女子選手で最多となる5大会連続出場を果たした重量挙げの三宅宏実選手についての原稿を読んでいて、「あげる」の使い分けに悩みました。
質問文のような「あげる」の用例について、毎日新聞では表記を取り決めてはいません。それゆえ、記事データベースで「バーベルをあげ」と検索してみると、「上げる」「挙げる」の双方が使われています。バーベルを下から上へと移動させる=持ち上げるのだから、「上げる」と書くのが一般的なようにも思えますが、こちらが13件なのに対し、「挙げる」は30件。両者でそれなりの開きがあります。やはり競技名を重量「挙げ」と書くことが大きいのでしょうか。
広辞苑7版は「あげる」の項目に「広く一般には『上』。はっきり示す意で『挙』、高くあげる・陸上に移すなどの意では『揚』も使う」という説明を載せています。重量挙げは、ただ単にバーベルを「上げる」だけではなく、頭上で静止させてはっきりと示すため、「挙」との親和性が高いと考えられます。
一方「国旗を揚げる(=掲揚)」「たこ揚げ」などと同様に「高くあげる」の意から「重量揚げ」とするのも一見よさそうに思えますが、こちらの表記はあまり見かけません。「揚」を使う場面は、ある程度限られるようです。
(2021年08月23日)