「おざなり」と「なおざり」という言葉について伺いました。
目次
「おざなり」が優位だが…
政府が基礎研究を「○○」にしてきたため、困ることになった――どちらを使いますか? |
おざなり 57.8% |
なおざり 34.8% |
上のどちらでもよい 7.4% |
漢字で書けば「御座成り(御座形)」と「等閑」なのですが、平仮名で書くとなんだか似てしまう「おざなり」と「なおざり」。政府が基礎研究を「おざなり」にしてきた――とする人が過半数を占め多数派でした。出題者が、こちらの方がなじむと考える「なおざり」を選んだ人は3分の1程度。設問の例では、どちらがよいかスパッと割り切れないかもしれませんが、二つの言葉の違いを見ることから考えていこうと思います。
「おざなり」が使えない場合
「尊い人間の生命を等閑にしたのは、どいつだ!」(葉山嘉樹「海に生くる人々」)
「等閑」とありますが、会話文でもあり、これは「なおざり」と読むところでしょう。「なおざり」の代わりに「おざなり」を当てはめることができない例です。
なぜ「おざなり」を当てはめることができないか。「おざなり」は「誠意のない、その場かぎりの間に合わせであること。『―の環境保護対策』『―に報告して済ます』」(明鏡国語辞典3版)。要するに、本来ならきちんとしなければいけないことを、いいかげんに、やっつけ仕事として済ませることを言います。「御座形」という漢字表記からも分かるように、お座敷から用事を済ませようとするのは真面目な態度ではないということです。
しかし、上の例のように「生命を~」などという場合、「生命をいいかげんに済ませる」というわけにもいきません。一方の「なおざり」は「物事を軽く見て、いいかげんにしておくこと。おろそか。等閑(とうかん)」(同)。こちらも「いいかげん」という意味を含みますが、「おざなり」のいいかげんさには怠惰さが感じられるのに対し、こちらは「軽視」という価値判断がにじみます。「生命を軽く見る」なら話も通じます。
「おろそか」に近い「なおざり」
辞書編集者・松井栄一さんの「ちがいがわかる 類語使い分け辞典」(小学館)は「なおざり」の項目で、「なおざり・おろそか・ゆるがせ・いい加減」を類語として取り上げています。「基本の意味」は、いずれも「物事への対応が不熱心・不徹底であるようす」。「おざなり」は比較の対象としては取り上げられていません。
意味として「『なおざり』は、大事なことをそのままほうっておいたり、真剣に対応しなかったりするようす。『おろそか』は、重視・尊重すべき物事・対象であるのに、そういうものとして扱わないようす」と言います。上の引用の例に即すると「生命をおろそかにする」と言うこともできます。「なおざり」は類語の「おろそか」と同様、いいかげんな態度のうちにも、価値判断が含まれていると考えるべきでしょう。
「おざなり」については、「類似の語」として注記されています。「その場の間に合わせで中途半端に済ませるようす。『なおざり』と混同されやすいが、意味は異なる」といい、使い分けに迷うのはあくまで語形が似ているからだと言っているようです。
なぜ「なおざり」の方がなじむのか
さて、上のようなことを踏まえて質問文の例――政府が基礎研究を「○○」にしてきた――を見ます。
政府が基礎研究を「おざなり」にしてきた、とするならば、間に合わせながらも政府は基礎研究をしてきた、という話になります。しかし実際に基礎研究をするのは、政府ではなく大学や研究機関のはずで、何だかしっくりきません。政府は基礎研究に関する施策をおざなりにしてきた――ぐらいなら、なんとか読めるでしょうか。
政府が基礎研究を「なおざり」にしてきた、とするなら、本来重視すべきものを軽視して、すべきことをしないまま放置してきた――という意味に読むことができます。この場合は政府が基礎研究の主体である必要はありません。基礎研究を重視すべきだとする主張を政府が取り入れなかった、といった場合でも「なおざり」ならば当てはまります。出題者が「なおざり」を推奨したいのはこうした理由からです。
一応するのが「おざなり」、しない場合もある「なおざり」
最後に改めて、毎日新聞用語集からこれら2語の使い分けの項目を引きます。
(基本を)おざなりにする→基本をなおざりにする
なおざりな返事→おざなりな返事「おざなり」はいいかげんな態度ですること、「なおざり」はいいかげんに考えて放置すること
一応「する」のが「おざなり」、「しない」場合もあるのが「なおざり」。「○○をおざなりにする」という形は、そもそも「○○をする」と言いにくい場合には使えない、と考えるのもよいかもしれません(「基本をする」とは言いにくい)。
(2021年03月16日)
「おざなり」と「なおざり」はしばしば混用される言葉ですが,質問文の場合は「なおざり」がなじむのではないでしょうか。
毎日新聞用語集の「おざなり」の項目には「(御座成り)→おざなり〔不十分ながら、その場しのぎにやること。まにあわせ〕おざなりな仕事をする」とあります。仕事を全くやらないわけではないけれども、いいかげんに済ませるという意味合いです。
一方の「なおざり」は「(等閑)→なおざり〔すべきことをせず、放置すること〕伝統をなおざりにする」とあります。いいかげんというところでは「おざなり」と共通する面もありますが、「なおざり」は「放置する」までも含み、全くやらない場合もあるということ。また「すべきこと」をあえておろそかにするニュアンスがあります。
質問文のような場合は、大事なことを顧みずおろそかにしてきたということで「なおざり」を使いたいところです。皆さんはどちらを選んだでしょうか。
(2021年02月25日)