「輩出」という言葉を人間以外にも使えるか伺いました。
目次
「名馬などには使える」が最多
その牧場は名馬を「輩出」した――馬など動物に使ってもよいですか? |
動物にも問題なく使える 21.6% |
名馬など特に優れた存在なら例外的に使える 42.7% |
問題がある。人に限って使いたい 35.7% |
「名馬」のような特に優れた存在なら「輩出」するといっても差し支えない、と考える人が4割強で最多でした。「問題がある」と考える人は3分の1強。国語辞典の説明では人に限って使うとするものが主流ですが、用法を広げることに抵抗を感じない人も多いようです。
辞書は「人物」に限定が多数派
「輩出」の使い方については以前にも取り上げたことがありますが(「多くの大臣を輩出」 気になる?)、今回は動物にも使うことができるかがテーマの質問でした。
国語辞典による「輩出」の説明は、「才能のあるすぐれた人物が次々と世に出ること。また、そのような人物を世に送り出すこと」(旺文社国語辞典11版)のようなものが一般的です。世に「出ること/送り出すこと」と両方が載るのは、もともと「人材が輩出する」という自動詞の用法が普通だったものが、現在では「人材を輩出する」のように他動詞として用いることが一般的になってきたためです。
14点の国語辞典を引きましたが、うち10点は「すぐれた人物が~」などと人に限定して説明していました。残る4点は、「すぐれた人物などが~」のように若干の幅を持たせつつも、人を中心とした記述とする(新潮現代国語辞典2版など)か、単に「つぎつぎに〈出る/出す〉こと」と説明しつつも用例で「人材〈が/を〉―する」のように、主として人に使うことを示す(三省堂国語辞典7版)かのどちらかです。積極的に動物など人間以外にも使うことを記すものはありませんでした。
比喩的な表現か、許容される用法か
今回の質問のきっかけになったのは、訃報における故人の事績で「牧場を開き、名馬○○などを輩出した」と記したくだりでした。「門下からすぐれた人材が/を輩出する」(岩波国語辞典8版)のような用例に鑑みても、「牧場から名馬を輩出した」というのは人か馬かの違いだけであって、形としては無理はないように見えます。
辞書の説明では「輩出」は「人物」に限って使う言葉だとされていても、比喩的な表現として受け止めれば、名馬のようにすぐれた存在に使うことは問題ないと考えることもできるかもしれません。また「人物など」に使える言葉であるなら、「など」の部分に名馬も含まれ、許容されるという考え方もできそうです。
今回のアンケートでは3分の2近くが動物にも使える場合があると回答しましたが、こうした用法の幅を酌んでのことだろうと感じました。もっとも、3分の1強は「問題がある」と感じたことを考えると、新聞でどうするかは悩みどころです。上に引いた訃報では「~を出した」と直しましたが、やはり動物に「輩出」は避けた方が無難という気もします。
親が子供を「輩出する」?
ところで競馬における用法では「○○は種牡馬としてGⅠ馬を輩出した」のような書き方を見ることがあるのですが、これは人間だとほぼ見ない用法です。「毛利元就は3人の優れた武将を輩出した」とは言いにくく、「毛利家は~」の方が違和感は小さくなります。本来なら馬においても、このような用法は無理があり、「~GⅠ馬を生んだ」などとすべきだと感じるのですが、どうでしょうか。
(2020年11月24日)
ある日出稿された訃報でのこと。経歴で馬の牧場主も務めたことが紹介されていましたが、「名馬○○などを輩出し……」とあるくだりに引っかかりました。「輩出」は「続いて多くの人材が出る、または人材を出すこと」(岩波国語辞典8版)とあるように、人間限定の説明を載せる辞書が多いのです。
その原稿では「名馬○○などを出し……」と直すことで済ませましたが、「輩出」を人以外に使う例が他にあるか気になります。毎日新聞の記事データベース(1987年~)で「馬を輩出」を検索してみると、東京本紙(地域面除く)だけでも52件と、少なからぬ数が出ています。比喩的な用法として、競馬界で普通の言い回しになっているのかもしれません。
しかし使い方を見てみると「種牡馬として多くのGⅠ馬を輩出」のような、これを「輩出」と言ってよいか困惑してしまう使い方も見受けられます。皆さんは人間以外に「輩出」を使用することを、どう感じるでしょうか。
(2020年11月05日)