読めますか? テーマは〈新職場の激励〉です。
初登庁
答え
はつとうちょう
(正解率 69%)官庁に初めて出勤すること。同音異義語の「登頂」は「とちょう」とも読むが、登庁はそうはならない。今年2月に東京都庁に初登庁した舛添要一知事は「皆さんの仕事の一つ一つが世界一につながる」と訓示した。
(2014年04月21日)
選択肢と回答割合
しょとちょう |
1% |
はつとうちょう |
69% |
はつとちょう |
30% |
孜々
答え
しし
(正解率 53%)せっせと励む様子。「孜々として働く」などと使う。羽田孜(つとむ)元首相の名の字である。夏目漱石の1901年3月の日記に次の言葉がある。「未来ハ如何アルベキカ、自ラ得意ニナル勿レ、自ラ棄ル勿レ 黙々トシテ牛ノ如クセヨ 孜々トシテ鶏ノ如クセヨ」
(2014年04月22日)
選択肢と回答割合
人品骨柄
答え
じんぴんこつがら
(正解率 56%)品位と人柄。「新人諸君、要はキミの人品骨柄が試されるのだ。頑張りたまえ!」と励ますのは「放送界の新人諸君」と題した松尾羊一さんの文章(毎日新聞2007年3月27日夕刊)。その前は「一番信頼される放送局たれ」という社長訓示が引かれている。「放送局」を「新聞社」に置き換えるなど、すべての社会人が心すべきことだろう。
(2014年04月23日)
選択肢と回答割合
じんぴんこつがら |
56% |
じんぴんこっぺい |
39% |
じんぴんほねがら |
5% |
身を粉にする
答え
みをこにする
(正解率 92%)ひたすら一生懸命働くこと。「こな」と言わないよう注意したい。なお粉はおしろいに用いたことから「粉飾」は本来、化粧の意味だった。今はうわべを飾り立派に見せることを表す。「身を粉にして働きます」と言った人は、その言葉が粉飾と思われないよう頑張ろう。
(2014年04月24日)
選択肢と回答割合
みをこなにする |
8% |
みをこにする |
92% |
みをふんにする |
0% |
下問
答え
かもん
(正解率 80%)目下の者に質問すること。「論語」に「下問を恥じず」という言葉がある。異動などで自分より若い人が仕事の先輩となることも多いだろうが、素直に分からないことを聞く人を孔子も評価していた。
(2014年04月25日)
選択肢と回答割合
◇結果とテーマの解説
(2014年05月04日)
この週は「新職場の激励」というテーマでした。
最も難しかったのは「孜々」。とはいえ半数以上の正解率なので、回答者のレベルの高さを感じました。この語は出題者自身よく知らなかったのですが、用例を調べてこのテーマにぴったりだと思いました。出題時の解説でも紹介した、ロンドン留学中の夏目漱石の1901年の日記です。ここでは岩波文庫の「漱石日記」から引用します。
《三月二十一日 (前略)未来は如何あるべきか。自ら得意になる勿れ。自ら棄る勿れ。黙々として牛の如くせよ。孜々として鶏の如くせよ。内を虚にして大呼する勿れ。真面目に考えよ。誠実に語れ。摯実に行え。汝の現今に播く種は、やがて汝の収むべき未来になって現わるべし》
いかがでしょう。日記ですよ、これ。でもたとえ他人にむけた文章だとしても、今日これだけ力のこもった激励の言葉を述べられる人がどれだけいるでしょう。漢語が多い言葉の力強さもさることながら、神経を削るほどに日本の未来を考えていた明治という時代の精神が短い文言からはじけだすようです。
次に正解率が低かったのは「人品骨柄」。漢字そのものは易しいのですが、「人品骨柄卑しからぬ」という使い方が場合によってはちょっと差別的なニュアンスを帯びるためか、昔よりは出なくなっています。
「初登庁」は引っかけ問題。登は当たり前に読めば「とう」ですが「登山」は「と」、「登頂」は「とうちょう」とも「とちょう」とも読みます。この場合も「と」ではないかという引っかけです。でもだまされた人はさほどいなかったようです。
「下問」の出題時には論語の「下問を恥じず」という言葉を紹介しました。岩波文庫から引用します。ある人がどうして「文」というおくり名なのかという問いへの答えです。
《子の曰(のたま)わく、敏にして学を好み、下問を恥じず、是(ここ)を以てこれを文と謂うなり。(先生はいわれた、「利発なうえに学問好きで、目下のものに問うことも恥じなかった。だから文というのだよ」)》
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とはよく言われますが、長ずるにつれ、若い人にばかにされるのではという妙なプライドのため、素直に聞くことをためらうことが多くなるのではないでしょうか。そんなときにこの格言が利きます。
今回最も正解率が高かったのが「身を粉にする」でした。「こな」ではないということがポイントですが、このクイズ回答者にとってはほとんど引っかけ問題にならなかったようです。ただ、結果はだいたい予想できました。易しすぎるかも、と思ったときは解説でなるべく役に立つミニ知識を入れるようにしています。この時は「粉」がおしろいを示したということ。ですから「ふんしょく」の字が「粉飾」か「紛飾」か迷ったら、化粧で覆い隠すことだから「粉」だと思い出せば間違えることはありません。
さて、もうすぐ連休が明け、職場の新人たちも研修期間を終え新戦力の一員として働き始めることでしょう。漱石の言葉をもう一度贈ります。「汝の現今に播く種は、やがて汝の収むべき未来になって現わるべし」