読めますか? テーマは〈怒り〉です。
目次
勃然
ぼつぜん
(正解率 91%)顔色を変えて怒るさま。急に起こるさまなどの意味もある。明治の小説では「勃然」に「むっくり」「むかっ」というルビが振られたこともある。
(2015年02月16日)
選択肢と回答割合
がいぜん | 5% |
はいぜん | 3% |
ぼつぜん | 91% |
目に「角」を立てる
かど
(正解率 55%)怒った目付きをすること。「目を三角にする」と同じ意味。「目くじらを立てる」とも類義語とされるが、この場合は「細かいことで目くじらを立てる」など「重箱の隅をつつく」に近い意味で使われている。目くじらとは目尻つまり目の端のこと。
(2015年02月17日)
選択肢と回答割合
かど | 55% |
くじら | 26% |
つの | 20% |
瞋恚
しんい
(正解率 45%)怒り恨むこと。「正義と云ひ人道と云ふは朝嵐に翻がへす旗にのみ染め出(いだ)すべき文字で、繰り出す槍の穂先には瞋恚の焔(ほむら)が焼け付いて居る」(夏目漱石「幻影の盾」)
(2015年02月18日)
選択肢と回答割合
しんい | 45% |
じんきょう | 15% |
まなじり | 40% |
業腹
ごうはら
(正解率 82%)非常に腹の立つこと。紛らわしい語に剛腹(ごうふく=胆力があって動じないこと)がある。すぐ業腹になる人は剛腹ではない。
(2015年02月19日)
選択肢と回答割合
ぎょうふく | 13% |
ごうはら | 82% |
わざばら | 4% |
気色ばむ
けしきばむ
(正解率 82%)怒りを表情に表すこと。「きしょくばむ」とも読ませる辞書もあるが、少なくとも現代の標準的読みとはいえない。なお昔は「兆しが見える」という意味もあった。「源氏物語」で「梅はけしきばみほほゑみわたれる」と使われている。いにしえ人の春を喜ぶ言葉はこんなにも美しかった。
(2015年02月20日)
選択肢と回答割合
きしきばむ | 13% |
けいろばむ | 4% |
けしきばむ | 82% |
◇結果とテーマの解説
(2015年03月01日)
この週は「怒り」がテーマでした。
世界にはテロや戦乱による怒りが満ちている昨今ですが、中村修二教授がノーベル賞を取る原動力になったのは「怒り」と語るなど、怒りはうまく手なずければ前向きのパワーにも転化します。しかし今の日本では、怒りの矛先が妙に内にこもってしまっているような気がしないでもありません。
その象徴と思う日本語は「むかつく」です。本来、吐き気など肉体的に気持ち悪いことだったのが、いつの間にか怒りの感情を表すようになりました。2012年の文化庁「国語に関する世論調査」によると、「腹が立つ」意味で「むかつく」を使うと答えた割合は51.7%と半数を超しました。
さて「勃然」は勃が常用漢字になるだけあって、今回最も高い正解率となりました。なお「勃然」を「ムカッ」とルビを振った例が尾崎紅葉「二人女房」にあります。また二葉亭四迷の「其面影」には「むっくり」という振り仮名があります。明治時代には二つの意味が混在していた状況が読み方からうかがえます。
「目に角を立てる」は今ではめったに目にしない慣用句でしょう。「目を三角にする」は漫画の悪役の目を思い浮かべればいいのですが、「角を立てる」はイメージしにくく、「つの」なのか「かど」なのか知らないと読めません。ただ「角が立つ」の語を思い出せば正解できると思います。
「瞋恚」は今回最も低い正解率でした。「しんに」とも読みます。仏教に詳しい人なら「三毒の煩悩」の一つとして覚えているでしょう。他の二つは貪欲、愚痴。瞋恚は「怒り」に当たり、火のように善心を焼き、自分が正しくて相手が悪いと怒る心などと説明されています。
「業腹」もあまり使われませんが、それにしては高い数字になりました。この「業」も仏教と関連深い言葉で、梵語(ぼんご)karman(カルマ)の訳語だそうです。ところで、個人的な思い出で恐縮ですが、子供のころ広島でむずかったりわがままを言ったりしたとき母親は「ごういるねえ」と言っていました。この「ごういる」はどこからきた言葉でしょう。いらいらする意味で「業が煎れる」という言葉があるようなので、それが変化して「業を煎る」→「ごういる」となったのではないかと思っているのですが、どうでしょう。
「気色ばむ」は「業腹」とは逆に、それなりに使われている割には低めの数字という印象を持ちました。広辞苑などには「きしょくばむ」の読みも載せているので選択肢にしませんでしたが、それを入れたらもっと数字が低くなったかもしれません。おそらく古典でその読みがあったということだと思いますが、「きしょく」は今は「気色悪い」くらいしか使われませんね。日本国語大辞典には「得意げに意気込む」とありますので、意味も現代とは違っていたと思われます。
それにしても、「むかつく」にしても「気色ばむ」にしても、あるいは「キレる」にしても、日本語は怒る意味が拡大しているように感じられます。気色ばんで怒っている人は、次の源氏物語(末摘花)の美しい言葉を読んで気を静めてはいかがでしょう。
「日の、いとうららかなるに、いつしかと霞みわたれる梢どもの、心もとなき中にも、梅は、けしきばみ、ほほゑみわたれる、とりわけて見ゆ。階隠(はしがくし)のもとの紅梅、いと疾(と)く咲く花にて、色づきにけり」