この世にこんなにたくさん同音異義語があるとは……! 校閲の仕事を始めて約1年半。何に驚いたかといえば、世の中に存在する同音異義語の多さに驚きました。「脅威・驚異」など漢字も違えば意味も違うものもあれば、「修行・修業」など漢字も意味も似通っているものも数多く存在します。
このブログでもよく同音異義語の使い分けが取り上げられますが、校閲記者2年目の私の悩みは、使い分けがわからないことではありません。使い分けに悩む以前に、そもそも自分の頭の中の辞書に複数の候補がないことに頭を抱えています。
例えば、「iPS細胞を作成する」という一文。毎日新聞の表記基準によれば、「作製」と直さなくてはいけません。すぐに「作成」と「作製」が思い浮かべば、適切なものが使われているかを確認して修正できます。ですが、恥ずかしながら私は、この例に出合うまで「さくせい」の表記が二つあることを意識していませんでした。頭の中の辞書に「作成」しか載っていなかったため、疑わずに通してしまったのです。
他の候補を知らないわけではないのですが、瞬間的に出てこない、考える余地がない、そして読み飛ばしてしまう。自分の頭の中の辞書の頼りなさを痛感しています。変換キーを押せばざっと候補を並べてくれるコンピューターの機能に頼りっぱなしだったことが悔やまれます。
先日も同音異義語の落とし穴にはまってしまいました。「床運動を後方屈伸2回宙返りで締めくくった」。どこが違うかわかりますか?
答えは×屈伸→○屈身。残念ながら私の頭の中の辞書には「くっしん」といえば「屈伸」しかなく、音だけで納得してよく考えもせず通してしまいました。締め切り間際に先輩から「屈伸」ではなく伸身の対義語としての「屈身」が適切ではないかと指摘されて冷や汗。そんな同音異義語、思いつかなかった……! 驚異。そして脅威。危うく屈伸運動しながら宙返りする奇妙な技を、世に送り出してしまうところでした。
同音異義語に限らず、自分の頭の中の辞書にないということは、今までその言葉を積極的に使うことがなかったということ。これまでいかに狭い言葉の世界で生きてきたかを思い知る日々です。見落としては気づき、また見落としては気づき、そうして自らの辞書に一つ一つ言葉を収録しています。できれば見落とす前に辞書を充実させたいところですが。
この仕事を始めて少しずつ開けてきた言葉の世界。どこまで広がっているのか、先はまだまだ見えませんが、言葉の世界が広がる喜びを感じながら今日も「修業」をしています。
【大西咲子】