読めますか? テーマは〈軍隊〉です。
目次
兵站
へいたん
(正解率 78%)戦場の後方で弾薬、燃料などを補給する機関。政府の言い方に沿えば「後方支援」。だが兵站は敵にとって格好の標的とされる。自衛隊が他国の戦闘の支援のため兵站の役割を担うと、そこが戦場になるとの懸念が拭えない。站はある場所を占めて立つという意味の字。
(2015年08月10日)
選択肢と回答割合
へいせん | 13% |
へいたん | 78% |
へいりつ | 9% |
輜重
しちょう
(正解率 60%)「輜」は衣類を載せる車、「重」は荷を載せる車の意味で、合わせて旅行者の荷物を指す。軍隊関連としては「糧食・被服・武器・弾薬など、輸送すべき軍需品」を意味する。太平洋戦争では輜重輸送が途絶え多くの兵が餓死した。
(2015年08月11日)
選択肢と回答割合
けいじゅう | 27% |
しちょう | 60% |
ふくじゅう | 13% |
統帥
とうすい
(正解率 94%)軍隊をまとめ、率いること。大日本帝国憲法で天皇は陸海軍を統帥するとされた。帥は「率いる」との意味で「師」とは似て非なる字だ。
(2015年08月12日)
選択肢と回答割合
とうし | 1% |
とうすい | 94% |
とうそつ | 5% |
恩賜
おんし
(正解率 77%)天皇から授与されたもの。第二次世界大戦まで、天皇が士官学校などの成績優秀者に恩賜の軍刀や銀時計を授けた。今では東京の「上野恩賜公園」などの固有名詞で主に使われる。
(2015年08月13日)
選択肢と回答割合
おんえき | 1% |
おんし | 77% |
おんちょう | 22% |
糧秣
りょうまつ
(正解率 54%)兵士と軍馬の食糧。秣は「まぐさ」、つまり馬が食べる草のこと。「糧末」という誤字を目にすることがあるが、太平洋戦争で食糧が末端の兵士に行き届かなかったことを連想させる悲しい誤植だ。
(2015年08月14日)
選択肢と回答割合
りょうしょう | 24% |
りょうひょう | 22% |
りょうまつ | 54% |
◇結果とテーマの解説
(2015年08月23日)
この週は「軍隊」。前回のテーマは「原爆」でした。
Photo by ひでわく |
今回最も難しかったのは「糧秣」。これは今ほとんど目にしない字なので無理はありません。この「秣」の字が第二次世界大戦中使われていたということは、それ自体が時代錯誤といえるでしょう。だって米軍は自動車を駆使していた時代に馬の「まぐさ」ですよ。しかも軍馬でさえどれだけ戦場に送られていたのやら。
出題時の解説で「糧末」の誤植について書きましたが、例えば水木しげるさんの「コミック昭和史」(講談社文庫)に「ガダルカナルの将兵は糧末弾薬はこず マラリヤになりながら木の根をかじるしまつだった」とありました。その前後に軍馬など全く登場しません。兵隊は馬の餌以下の食物をとらざるをえなかったわけです。してみると「糧末」の表記も、誤植には違いないでしょうが末端兵士の悲惨な食糧事情が表れている気がしてきます。
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この漫画では先の引用の直後、例の「大本営発表」が出てきます。「軍人というものは“退却”という言葉をものすごくおそれる」「大本営は“転進した”と発表した」
この言い換えを現在の我々は「過去のこと」と切り捨てることはできるでしょうか。佐藤卓己・京都大教授は、安全保障関連法案についての報道の言葉に2015年6月11日毎日新聞「メディアと政治」で鋭く切り込みます。「後方支援」は日本側は前線から離れた「後方」で支援するから安全だと強調するが、英語で通常「logistic support」と訳され、米国は前線への補給を続けてくれる「兵站」と受け止めていることを紹介した上で、こう述べています。
旧軍の輜重(しちょう)軽視を引きずる日本人に共通の戦争観なのかもしれない。もちろん、新聞記者も例外ではない。そうでなければ、この「意訳」に気づいた記者たちはなぜ「兵站」と新聞記事で書かないのか。まさか常用漢字表にないからではあるまい。現代戦における「兵站」の重要性に理解が及ばないためだろう。
うーむ、確かに站は常用漢字ではありませんし、そういう問題じゃないと思いますが、ふだん常用漢字かどうか気にして仕事をしている我が身の首根っこを押さえられた気がします。
そこに出てくる「輜重」。過半数が読めたものの、輜も常用漢字ではなく普段使わない語ですから、3択でなければもっと少ないでしょう。しかし当時の兵士は読めていたのでしょうか。倉島長正著「国語100年―20世紀、日本語はどのような道を歩んできたか」(小学館)などによると、「戦線の拡大によって増える兵士の学力低下は著しく、一方で兵器の名称や部品・道具の複雑な漢語が急増したことに対処」するため、1940年には「兵器名称用制限漢字表」(基本の「一級漢字」と振り仮名付きで使う「二級漢字」)が決められ、それ以外の漢字は仮名を用いるようにというお触れが出されたそうです。戦後の当用漢字による漢字制限とは性格が異なりますが、使える漢字とそうでない漢字を選別することは戦前から行われていたのです。
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「統帥」は今回最も正解率が高くなりました。帥も、「恩賜」の「賜」も当用漢字(現常用漢字)です。「朕」「璽」もそうなのですが、このような字を並べると、天皇に関係する字が、結果的に今あまり使われなくなったものも含め目立ちます。使用漢字を線引きする以上、当時の必要性ないし決定者の意識がそこに抜きがたく塗り込められるのでしょう。
一方、新聞は常用漢字に入っていても基本的に使わない字を定めています。「朕」もその一つ。「おかみの決めた用字用語には必ずしも従いませんよ」というささやかな抵抗といえるでしょう。大本営発表を無批判に垂れ流していた時代とは違います。しかし、単に漢字使用のレベルにとどまっていては権力者のカウンターにはなりえません。政府の発する言葉に込められた意図を読み解き、その言葉がどういうイメージで読者に伝わるかを考えながら報道することが求められると肝に銘じなければなりません。