目次
イメージわく「スケアクロウ」
映画「バットマンビギンズ」に登場する悪役のスケアクロウ(scarecrow)は日本語では「かかし」。スケア(怖がらせる)クロウ(カラス)とあれば、どういうことに使われるものか分かりやすいが、「かかし」という日本語からは想像しづらい。
調べてみると、田畑で鳥獣が嫌がる臭いを出して近づけないような仕掛けをしたので、臭いを嗅がせるものという意味で「嗅がし」としたらしい。普段かかしと聞いても「嗅」という字は浮かばない。かかしに漢字を当てる時は「案山子」とするが、もう一つ「鹿驚」という表記もある。こちらなら、イメージが湧く気がする。
外国由来の言葉は日常会話でもよく使うし、すべて日本語で説明しようとするよりも便利な時がある。ただ、外国語の意味を正確に捉えておかないと、誤解や間違いの元になる。
「フェスなんて聞いたことない」?
20年以上前、地域のニュースを伝えるページを校閲していた時、県民が集まって展覧会をしたり、生鮮市場が開かれたり、音楽が演奏されたりする集まりを「●●フェスティバル」として紹介する記事がよく掲載されていた。そこで、編集者が「●●フェスタ開かれる」と見出しをつけたので、校閲側から「フェスティバルとフェスタは別の言葉ですよ」と見出しを直すように何度もアピールした。フェスティバル(festival)は英語で「祝祭、お祭り、催し物」を意味する。フェスタ(festa)はイタリア語で「祭典、華やかな催し物、祝日」。意味は似ているが、元の言語が違うので完全に同じと見なす使い方はできない。
編集者から「では、フェスティバルを短く縮めたい時にはどう書けばいいのか?」と聞かれ、「フェス」と答えたら「フェスなんて聞いたことない!」と言われたものだ。ご存じの通り、各地で盛大な音楽フェスティバルが開かれるようになった今では「フェス」という言葉に違和感はまったくないが、「20世紀」の編集者にはぴんとこなかったわけだ。
「ハイジャック」 船やバスでも
すっかり定着している言葉でも、勘違いはある。かつて「北海ハイジャック」(1980年)というアクション映画の佳作があったが、この作品に飛行機は出てこない。大西洋の北海油田で採掘基地がテロリストに乗っ取られたという筋書きだった。飛行機が上空で乗っ取られたから「ハイ」ジャックだと思う人が多いからか、船が乗っ取られたら「シージャック」で、バスが乗っ取られたら「バスジャック」だと思ってしまうことがある。派生して「本家」同様に定着してしまった面もあるようだ。
ハイジャック(hijack)の「ハイ」は昔の強盗が「ハーイ、ジャック(お前)」と呼びかけたという説や「手を『高く』上げろ」を示す「ハイ(high)」だったという説もあるが、いずれにせよここに「上空」という意味は含まれていない。記憶が薄れた頃に新たなハイジャック事件が起きるため、残念ながら我々になじみのある言葉といえるが、事件のニュースを見たら、ハイジャックの元々の意味を改めて意識してもらいたい。
【岡本隆一】