「固定概念」という言い回しについて伺いました。
目次
「おかしい/おかしくない」は半々
何かについての凝り固まった考えのことを「固定概念」と言いますか? |
「固定概念」と言う 27.8% |
おかしいとは感じないが、自分では「固定観念」を使う 23.8% |
おかしいと感じる。「固定観念」を使うべきだ 48.4% |
強い思い込みについて「固定概念」と言うことをおかしいと感じるか感じないかは、ほぼ半々という結果になりました。ただし、自分でも使うという人は4分の1強で、少ないとは言い切れませんが、多くはありません。使いにくく感じる人が多いのはどうしてでしょうか。
「概念」と「観念」の差
「それが正しいと一度思いこんでしまって、他の選択を認めようとしない考え」(新明解国語辞典8版)といった意味で国語辞典に載っているのは「固定観念」。これが普通の言い方です。それを踏まえた上で、「固定概念」という言い方は直すべきものなのかどうかというのが今回の質問のポイントでした。
「観念」と「概念」はどれほどの差がある言葉なのか。校閲のツイッターには「観念は個人的なもの、概念は一般的なもの」という意見が寄せられましたが、出題者の理解もそのようなものです。辞書では例えば新選国語辞典(10版)の説明から、この場で必要なものを抜き出すと、
観念……物ごとについての考え。
概念……多くの観念のうちから、共通の要素をぬきだし、それをさらに総合して得た普遍的な観念。
とあります。「観念」が、日常的には単に、何かについての「考え」を意味するのに対し、「概念」は個々の観念より上位にあたるものとして想定されます。個別の「観念」に対して、一般性を持つのが「概念」だと考えて支障ないでしょう。
「観念」についての新選の説明は少し素っ気ないので、ほかの辞書の説明も引きましょう。
個人の、特定の物事に対する考え方。「時間の観念がない」「責任観念」「固定観念」(現代国語例解辞典5版)
世の中にはこういうものがある、それはこういう性質のものだ、という考え。「経済観念・時間の観念のない人・子どもは純真だという観念」(三省堂国語辞典8版)
「観念」が個人に属するものであり、またそれは常に「何かについての考え方」であるということが伝わりやすいと思います。ちなみに「時間の観念のない人」という場合は、時間そのものについて無知であるとか考えがないというわけではなく、決められた時間を守る心構えに欠けている人という意味ですね。これを「時間の概念がない人」というと、話が通じにくくなります。
一面的な考え方には「観念」がなじむ
こうしてみると「固定観念」がなじむ理由は分かるように思います。思い込みによって凝り固まった考え方、というのは通常、個人に帰せられるものだからです。
もっとも、たとえば「女性は家庭を守り、男性は外で働く」のような考え方も「固定観念」と言えそうです。こうした考え方は個人のものではないように見えますが、考え方が一面的であるという点において「概念」に期待される総合的・普遍的な性質とは差があります。個人の観念と同様に扱って差し支えないでしょう。
「固定概念」は修正すべきか
「固定概念」を直すかどうか、というのはどう考えるべきでしょう。毎日新聞の記事データベースをこの単語で検索するとそれなりの数がヒットするのですが、それらの記事を改めて見ると、すべて「固定観念」「思い込み」といった言葉に置き換えて問題のなさそうな内容です。そういった使い方ならば、「普通は固定観念といいます」として直すことも無理とは言えない印象を持ちます。
ただしこれが、「固定概念」が誤りだから直すのか、と言われると即答しにくい。もしかすると、揺るぎなく確立された概念について「固定概念」と言える場合もあるかもしれません。あくまで「思い込み」のような場合については「固定観念」の使用をお勧めする、というのがよいのではないかと考えます。
(2022年04月19日)
「それが正しいと一度思いこんでしまって、ほかの選択を認めようとしない考え」(新明解国語辞典8版)と説明される「固定観念」。辞書に採録されていることから見ても、定着した言い回しとしては「固定観念」が使われるのではないかと思います。▲その一方で、原稿の中で「固定概念」という文句を見ることが時々あります。意味としては「固定観念」と同じように使われているのですが、果たしてこれは「固定観念」に直すべきものなのでしょうか。▲「【概念】物事の概括的な意味内容」「【観念】物事に対してもつ考え」(いずれも大辞泉2版)と、何かについての考えという意味でなら「観念」の方がよさそうですが、岩波国語辞典の「観念」の項目には「俗に、『概念』と混同しても使う」とあり、どっちがどっちか分からなくなっている面もありそうです。校閲記者としては「固定概念」を直すかどうか迷うのですが、皆さんはどう感じるでしょうか。
(2022年03月31日)