
「依存」の読み方は「いそん」か「いぞん」かについてうかがいました。
目次
「どちらも言う」含め「いぞん」が多い
| 「依存」の読み方は? |
| いそん 21.8% |
| いぞん 39% |
| どちらも言う 39.2% |
結果は「どちらも言う」が最多で、それを含めると濁音の「いぞん」は8割、清音の「いそん」は6割でした。予想外に「いそん」派が多かったという印象です。
ただし、これは使用実態を反映しているとは限りません。一般の人の話を耳で聞く限り、「いそん」と発音している人はほとんどいないような気がします。
正解があるテストではないが…
X(ツイッター)ではこんな反応がありました。
こういう尋ねられ方をすると「いそん」が正解なのだろうと誘導されてしまうが、 そう考えてしまうほどに自分の中では「いぞん」が定着している。
このアンケートは「正解」があるテストではありません(強いていえば正解は「どちらも正しい」)。でも、この質問を見て「えっ? 『いぞん』ではないの? てことは、普段使っていない清音のほうが正しいのかな」と、「いそん」を選ぶ人が少なくなかったという可能性があります。
例えば日本経済新聞の校閲で3年前、Xによるリサーチがあり、「いぞん」を選んだ方が84%だったそうです。これは質問時、「依存」の読み方として「いそん」「いぞん」の両方あることを明示した上で、「主にどちらで読んでいますか」と聞いていたようです。

それに対し、今回の質問は単に「どう読む?」と問うていました。新聞社の校閲の質問で違う結果になった一因は、自分がどう言うかはさておき「どちらが正解、あるいは適切か」という客観的な判断が回答者に働いたからと考えられます。
明治の辞書には「依存」は不掲載
ご存じのように「存」自体の音読みは「ソン」「ゾン」ともに存在します。円満字二郎著「漢字ときあかし辞典」(研究社)によると
音読みはゾンを用いる方が多い。ソンは平安時代ごろに正式とされた読み方だが、現在では、「存在」「存亡」「存続」「現存」など、使われる熟語が限られる。「依存」「共存」も昔は「いそん」「きょうそん」と読んだが、最近では「いぞん」「きょうぞん」とも読まれるようになっている。
――とのことです。また文化庁「言葉に関する問答集」(総集編、1995年)には「依存」の読みについてこうあります。
この語は、漢和辞典では、「イソン・イゾン」の両形を読みとして掲げるものが多いが、その順序は、必ずしもこの順ではない。また、国語辞典に、「依存」が採録されるようになったのは、比較的新しいことのようであり、明治から昭和の中ごろまでに編集・刊行されたものには、この語を採録していないものが多いようである。
お役所の文章らしく個別の辞書に触れていないので、当方で調べられた範囲で補足しましょう。明治時代に発行された国語辞典では確かに「依存」は見あたりません。
1935(昭和10)年の「大辞典」(平凡社)に「依存」は語釈のない空見出しで、「=依属」とありました。これは辞書に登場した最初期と思われますが、まだ一般的ではなかったことがうかがえます。ちなみに「依属」を引くと「たよりとすること」「dependencyの訳語」などとあります。
戦後間もない1952(昭和27)年に三省堂から出た「辞海」に「依存」が語釈付きの語として登場しています。仮名見出しは「いそん」で、「いぞん」は語釈の後の付記の形。岩波書店の広辞苑はその3年後に初版が出ましたが、やはり同じ形です。
1935年時点の辞典では「いぞん」
「言葉に関する問答集」に戻りましょう。
近年の編集にかかる辞典では、見出しとして「いそん」を採るものが主流を占め、語釈の後に「いぞん」の語形を載せているものと、いないものとがあるようになってきた。
職場などの最新の辞書で確認しました。
「いそん」を仮名見出しにして「いぞん」は付記――10種
「いそん」を仮名見出しにして「いぞん」を不記載――1種
「いぞん」を仮名見出しにして「いそん」は付記――2種
やはり今も清音が主流であることは変わりません。しかし、三省堂国語辞典は2022年発行の第8版で清音から濁音の仮名見出しに変更したことが注目されます。これはNHKが14年に、優先する読み方を「いそん」から「いぞん」に変えたことなどが背景にあるのでしょう。さらにそれより前の1995年、角川必携国語辞典が既に「いぞん」を前に掲げていたこともわかりました。
三省堂国語辞典は「伝統的には『いそん』」と付記していますが、おそらくこれは国語辞典における伝統であり、必ずしも一般の人がどちらを使っていたかということではないのではないでしょうか。
そもそも前述の1935年「大辞典」では空見出しとはいえ読み方は「いぞん」であり「いそん」は付記もされていませんでした。
悩ましいルビ付け
インターネットの図書館「青空文庫」では海野十三のSF小説で複数「いぞん」のルビが見いだせます。ただし昭和10年代の発表当時からそのルビだったかどうかは確認できません。
そこで、ぐっと時代は下りますが1981年発行の漫画「はみだしっ子13 つれて行って その4」(三原順、白泉社)のルビを探しました(出題者の記憶に残る名ゼリフなので割合すぐ確認できました)。
必要な時には他人に依存できる様にならなければならない
依存する事で傷ついたりはしない――紛いものではない――自信や自尊心の裏付けがあってこそ自立といえるのだ
漫画は総ルビで、2カ所とも「いぞん」となっていました。

花とゆめコミックス「はみだしっ子」13巻(三原順、白泉社)より
もちろん、これらの乏しい材料だけでは、清音が伝統的というのは間違いとは断言できません。ただ逆に、濁音が最近出てきたということもできないのではないでしょうか。
こうしてみると現状で「いぞん」を前に掲げる辞書がとても少ないのは不思議といえば不思議です。最初に引いたXの投稿者のように「いぞん」しかないと思い込んでいる人だって増えている可能性があります。
最近はアルコールやギャンブルなどに加え、SNSへの依存や中東原油への依存など、使用機会が非常に増えています。ルビを振る場合、「いそん」だと間違いと思われるかもしれないと思うのは、取り越し苦労でしょうか。今回のアンケートをふまえても、まだまだ悩む場面が少なくなさそうです。
(2026年09月29日)
一般向けの新聞では、使用文字は常用漢字を基本にしていて、義務教育で習う常用漢字に振り仮名を付けることはほとんどありません。だから漢字の読み方で迷うことは少ないのですが、毎日小学生新聞は全ての漢字に読み仮名を付ける方針にしています(週1回の「15歳のニュース」は別)。毎日新聞内でも「質問なるほドリ」という、特に読み仮名を増やしているコーナーがあります。
「依存」について、時々出てくる読み仮名は「いぞん」と「いそん」に分かれています。毎日新聞だけではなく、毎日小学生新聞でもどちらかに決める方針はなく、結果として割れています。辞書では「いそん」を見出しとして掲げ「いぞん」は付記するという形がほとんどなのですが、「いぞん」を前に掲げる辞書も少数ですがあります。
NHKでは2014年に「いそん」優先だったのを「いぞん」優先に変更しました。放送文化研究所の調査によると、92%が「いぞん」を選んだそうです。ただ、「いぞん」だと「異存」という同音異義語があるせいか、放送の現場では疑問を示す声もあったとか。皆さんはいかがでしょう。
(2026年09月15日)
