毎日ことばplusメールマガジンvol.90

*‥‥……‥‥*‥‥……‥‥*‥‥……‥‥*‥‥…vol.90 *2024.10.29*
毎日ことばplusメールマガジン
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こんにちは。毎日新聞校閲センターです。

毎日ことばplusの会員の方へ、校閲記者の気になる出来事やサイトの注目コンテンツなどを週１回お送りします。

秋はイベント目白押し

先日のメールマガジンでは「国語辞典ナイト」が９月１日から延期されたことを紹介しましたが、同月23日に無事開催された後もイベントは目白押しです。

飯間さん、石黒さん対談
10月18日夜、東京都内の書店で国立国語研究所教授の石黒圭さんと三省堂国語辞典編集委員の飯間浩明さんの対談イベントがあり、校閲センターの記者が聴きに行きました。

石黒さんの「言語学者も知らない謎な日本語」（教育評論社）刊行記念として開かれました。日ごろ留学生たちに日本語を教える立場の石黒さんですが、娘さんたちの話す言葉が理解できないという切実な問題を解決すべく、言葉を学ぶ立場となる本で、長女愛さんが共著者となっています。登場する「父」が「これだから昭和は」のように娘たちに冷たく言われてしまう場面もあり、石黒さんと同世代の校閲記者は身につまされる思いです。

例えば「ワンチャン」と言われて何のことかわからなかったそうで、「ワンチャンといえば後楽園で756号本塁打を打っているイメージがあるので」（石黒さん）、「王貞治さんですね」（飯間さん）。1990年代半ばに「DA.YO.NE」の歌などで流行した「だよね」が印象にある年代だけれど、それが今、相づちのように使われる「それな」に置き換わったようだとも話します。

飯間さんは「若者言葉を総体として品詞別に書いているところがいいですね」。品詞別に体系的に取り上げて解説を試みる中で新しい言葉を生み出すメカニズムもわかるのではないか――というわけです。若者言葉に耳を傾けたくなるイベントでした。

古田さん、牟田さん対談
27日には「言葉なんていらない？」（創元社）刊行記念として著者の東京大准教授、古田徹也さんが校正者の牟田都子さんと対談するイベントがあり、当日の参加ができなかったためアーカイブで視聴しました。

古田さんのお話は以前「産業日本語研究会」シンポジウムの講演で伺ったことがありました。そのときは「言葉のやさしさ」と「言葉の豊かさ」を追求するには緊張関係があるが、それは解くべきではないという話でした。今回の著書名にはちょっとどきっとしますが、言葉の不自由さ、もどかしさ、そしてそこから逃れられないことをテーマにしているそうです。

校正者の牟田さんの著書「文にあたる」から古田さんが取り上げたのは、ある校正者が言った「料理の本ができるようになれば一生食べていける」という言葉です。どういうことかと古田さんは考え、ウィトゲンシュタインの「生活の流れの中で初めて意味を持つ」という言葉を引いて「字面」だけでは伝わらず、料理をする生活がないとわからないということを説明します。肉じゃがの作り方でジャガイモを４等分に切ると書かれていたら、十字に包丁を入れて四つ割りにでもしたいところですが、料理を知らない人はスライスするように切るかもしれない――といった問題があります。しかし、その言葉の「ずれ」が怖さと面白さではないかというのです。

校閲記者の私たちも、言葉を使ってなんとか伝えようと格闘しています。面白がってはいられないけれど、そんな飽くなき格闘を楽しくも感じながら過ごしています。
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